ジャーナル

「普通車が豚肉専門店。店主とのやりとりで学んだこと」 タンマリのコラムVol.12

マレーシアのリアルな食体験。華人系の嫁タンマリが、現地で暮らして感じたこと、自分のなかの変化、周りの人との関係などをつれづれに語ります。

日本人タンマリ。ダーリンは華人系マレーシア人。2018年の4月1日より、ダーリンの実家であるマレーシアのジョホールに子ども3人と移住。義父(タンpapa)、義母(タンmama)、義姉、長女8歳、次女5歳、坊3歳と計7人暮らし。ダーリンは日本で仕事。
 この連載について / タンマリと家族のプロフィール

Tanmari’s diary in Johor,

普通車が豚肉専門店。店主とのやりとりで学んだこと

27.June.2021 

 text and photo by Tanmari

 マレーシアに住み始めて、日本人とマレーシア人(周りにいるのは華人なので、とくに華人)では、食材を買う際、気にする点が違うことに気づいた。たぶん日本人なら「安さ」「新商品」「味」あたりが重要なポイントだろう。もちろんマレーシア人もそれらを気にするが、さらに大切にしていることがある。今回は、そのことに気づいた体験談を話そう。

 

 わが家にとって豚肉は食卓の定番だ。でも、私が暮らす小さな街には豚肉を買える場所が、近くには3か所しかない。しかも時間限定。

 ある日、その1つである自家用車で営業している移動豚肉店に買いものをした。ここは、店主のアンクル(おじさん)が流しでやっていて、だいたいわが家の玄関前に朝8時半くらいに現れ、車のホーンを1回鳴らして「オーーーイ」と声をかけてくれる。待ってくれるのは3分。たった3分で買いものをする意志を表さないと、どこかに行ってしまう。ほかの家の前も同様のようで、反射神経が試される。タイミングを合わせるのは大変だが、鮮度がいいので、わが家はこのアンクルの豚肉店をひいきにしている。。

 ある日、いつものようにアンクルから豚肉を買っていた。でも私が欲しかった「五花肉(豚バラ肉のブロック)」がなかった。子供たちの好きな肉じゃがを作ろうと思っていたのに、今日は無理か。するとアンクルが「明日ならある」とのことで「じゃ、お願いします」と即答した。ちなみに、この時点で、値段や分量などの確認は一切ない。「要?不要?(いるか?いらないか?)」だけ確認し、さっさと行ってしまった。本当は「300グラムだったら、いくらですか?」と聞きたかったが、あっけなく時間切れ……。

 そして翌朝。別の豚肉店に用事があり、そこに「五花肉」があったので、つい買ってしまった。一瞬アンクルとの約束が頭に浮かんだが、約束した、といってもやりとりは雑な感じだったし、私が買わなくても誰か買うだろう、と判断。

 8時半、いつものようにアンクルが家の前に来て「五花肉買うか?」と聞かれた。「ごめん、もう買っちゃったから今回はいいわ」と伝えた。そのときアンクルは何も言わなかったし、私も何も思わなかった。

 ところが、後日、そのことをタンママに話したら、ママの顔色が変わった。

「真理子!あんたそれはダメ! 今度からうちにいいお肉売ってくれなくなるよ!」とママ。そして、近所のおばさんたちに聞きまくってアンクルの携帯電話を調べ、アンクルに電話。連絡が取れ、うちにもう一度アンクルが来た。タンママは「うちの嫁が悪いことしたねぇ」と謝りながら、いつも以上にたくさんの豚肉を買ったのだ。

 タンママはこう教えてくれた。「真理子に頼まれたから、アンクルはその豚肉をほかの客に売らなかったんだよ。それなのに真理子が買わずに約束を破った。それはアンクルが今後、うちを客として信用しなくなってしまう、ということだよ。うちがお願いしても、また約束を破られるかも、と快く聞いてくれなくなるかもしれない」

 

 そういうことか! 目から鱗が落ちた。今まで、そんなことを考えたことがなかった。

 日本には「お客様は神様」という言葉があるように、たいていの我がままをお客として許されてしまうように思う。そんな文化に慣れていた私は、買い物とは「売り手と買い手」の信頼関係で成り立つという基本のことを忘れてしまっていた。

 

 また、マレーシア人は個人事業主がとても多い。だから常に、自分は売り手にもなるし、買い手になりうる、という意識を持っている。だから今は自分が客でも「売り手」の立場を考えながら買い物をする。そしてこれは「買い手」にとっても損な話ではない。店が客を信用してくれたら、規格外のサービスや値段交渉にのってもらえる。両者にとって得なのだ。

 

 こんな基本的なことを知らない私って……。恥ずかしいかぎりだが、失敗しても次がある! これからも華人文化をサバイブしながら、生きる知恵を付けていこうと思う。

text and photo by Tanmari edit by Oto

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