ピックアップ

マレーシア人の民族性と食文化

Malaysia Gohan Kai Report マごはんメンバーズ向けメルマガ(発行日 15/Jan/2020)を加筆修正したものです 


マレーシアの最大の特徴であり、日本とのいちばんの違い、
それは複数の民族がともに暮らす多民族国家だということ。


今回は民族という観点から食文化をひも解いてみようと思います。

歴史がうんだ多民族が暮らす国

マレーシアの町を歩くと、様々な装いの人が、多様な言語を話し、複数の文字が表示された看板が目に飛び込んできます。

先日、クアラルンプールでモノレールに乗っていたら、目の前の女の子たちはマレー語で盛り上がっていて、隣のカップルは何やら真剣な表情で英語で会話。ドアの近く、スマホで話している女性からは中国語が聞こえてきました。一度に見渡すことができる同じ車内に、じぶんが普段使うのとは違う言語を話している人がいること。これぞまさにマレーシアです。


マレーシアの民族は、マレー系が69%ともっとも多く、次に中国系が23%、インド系が7%と続き、さらに100近い少数民族が公認されています。

ルーツをみると、マレー系は3000~4000年前に雲南方面から渡ってきた人々がおもな祖先。民族学的には、移動の過程で世界宗教を受けいれた新マレー系とよばれ、世界宗教のなかでもイスラム教を信仰しています。

それに対して、中国系とインド系の多くは19世紀、世代でいうと今から3~4世代前にこの地に渡ってきた移民が祖先です。

中国系は、すず鉱山開発のために中国南部から移住。福建、広東、客家、潮州、海南などさまざまなグループの人々がこの地に渡ってきました。

インド系は、英国植民地政策の一貫でゴム農園開拓のために移住した人がほとんど。南インドのタミル人やテルグ人、北インドのパンジャブ人などがマレー半島へ。

さらに忘れてはいけないのが少数民族。マレー半島で暮らす彼らの祖先は、もっとも古いといわれる2万5千年前にやってきたネグリトやセノイ。新マレー系と同時代に渡ってたアミニズム信仰をもつ人々などもいます。

このように多様なルーツをもつ人がともに暮らす国、それがマレーシアです。


中国系、インド系のなかにも多様性がある

さて、マレーシアの多民族性を語るとき、もうひとつ大事なのは、同じ民族のなかにも多様性がある、ということです。

たとえば中国系のなかで、福建ルーツと広東ルーツでは、春節の祝い方が違います。福建系は中国正月の9日目に豚の丸焼きを食べるのがならわし。広東系にはその文化はありません。一方で、現在はマレーシア中国正月の風物詩となっている「魚生=イーサン」という祝い料理は、広東由来ではと想像しえちあす。なぜなら広東には刺身料理があり、呼び名も同じだからです。

行事だけでなく、言語も同じです。つまりルーツが違えば、話せる言葉が変わります。以前、中国系マレーシア人10人ぐらいと一緒にランチをしたとき、みんな中国語で話しているので通じているのかと思いきや、あとで聞くと、客家語のときはこの人とこの人が会話、福建語はこの人とこの人にしか通じない状況だったとか。これ、日本人からすると驚くほど複雑! でもみんなそれが当たり前のようでした。

また、インド系の友人に、解読してもらおうと思って文字を見せたら「タミル語なのでわからない」と言われたことも。その方は北インド出身でヒンディー語だったのです。

まとめますと、マレーシア料理のなかに、広東の点心、福建の麺、潮州の粥、南インドのバナナリーフカレー、北インドのナンなどバラエティに富んだ食文化があるのは、移民のルーツが多岐にわたっているからです。


広範囲に渡るマレーシア人のルーツ

さて、マレー系はどうでしょう。公用語であるマレー語を話すマレー系は一見同じように見えますが、kこちらもそうではありません。彼らの場合、周辺の国や民族間のミックスによって多様性が生まれています。たとえば、両親のどちらかがインドネシア人だったり、祖父母にタイ人がいたり、フィリピン人と結婚したり、中東出身の祖先をもつ人もめずらしくありません。

マレーシアは、地理的に民族の流動性が大きい海域世界であること。そして、マレー系は他者への開放度の高いイスラム教徒であること。この2つがミックス文化を発展させた、といわれています。

マレーシア料理に、インドネシア、タイ、中東にある料理と同じ味があるのは、このマレー系のダイナミックな血縁関係に理由がある、といってもいいでしょう。


現代のマレーシア人の嗜好

ところで先日、マレーシアで購入したレシピブックを眺めていて、おもしろいことを発見しました!

1983年発行の(2007年重版)書籍『Malaysian Cuisine』では、マレー系、中国系、インド系、ニョニャ系、ユーラシアン系に、レシピがカテゴリー分けされていて紹介されていました。国民食「ナシレマッ」はマレー系、おなじみの「チキンライス」は中国系のページに記載。

ところが、2016年発行の『Amazing Malaysian』をめくると、レシピは民族別のカテゴリー分けではなく、肉、野菜、魚、ご飯といった素材による分け方になっています。「ナシレマッ」「チキンライス」は、どちらも同じご飯カテゴリーに登場。つまり、○○系という民族名の冠はなく、等しくマレーシア料理として紹介されているのです。

マレーシア料理を民族別に紹介するのはわかりやすいのですが、現在のマレーシア料理全体を表す表現としては、もしかしたら合致していないのかもしれません。というのも、民族別の料理はあっても、人々の好きな料理は民族ごとにイコールではないからです。つまり、マレー系の人々がマレー系の料理ばかりを食べているのではなく、中国系の人々が中国料理ばかりを食べているのではなく、お互いの料理やインド系料理も大いに楽しんでいる、ということ。

様々なルーツをもつ民族の味は、互いに影響を与え、バラエティさを維持したまま、新しいマレーシア料理として発展している。そのイメージがいちばん近い。そしてそこに、マレーシアの食文化の魅力があるのです。

:::::::


食のルーツと人々の好みについて、資料にまとめてみました。拡大して、ご覧ください。

参考文献:『もっと知りたい マレーシア』(弘文堂)

関連記事

  1. アジアごはんズVol.7(終了)2019年7月6日「東南アジア4…
  2. カリッとやみつき煮干しスナックのレシピ
  3. Otoサロン・オンライン「WAU Cafe」ニョニャ・ワンプレー…
  4. ナシレマが好きです[WAU No.10記事]
  5. 家で楽しもう! 現地のマレーシア料理情報 Delivery &#…
  6. 食事イベントVol.28(レポート)2月17日(土) ヤ~ムセ…
  7. マレーシア食材、日本ではどこで買える?
  8. マレーシアのラクサ事情 Laksa in Malaysia

おすすめ記事

  1. イポーで麺三昧。カレー麺、ラクサ、餡かけ麺など続々!
  2. マレーシア、イポーで人気の郷土菓子まとめ
  3. マレーシア、本場で「イポーチキン」を学ぶ。食材のよさを引き出す技
  4. おすすめの本『日本の肉じゃが 世界の肉じゃが』(新星出版社)。ニョニャ料理「アヤム・ポンテ」も登場
  5. ペナンの家庭で、究極の美食ニョニャ料理「ナシウラム(ハーブご飯)」を習う
  6. ペナンのカレー食堂で、わたしが選んだお好みプレートはこちら!
  7. マレーシア、ペナンで40年続く点心店「榕槟茶楼 Yong Pin Restaurant」
  8. ペナンで食べた家庭料理がおいしくて驚き。食通のリムさんの技はさすがでした!
  9. マレー半島の海辺のエリア、トレンガヌ州を訪問。ここは米料理の町です
  10. マレーシア、クアラルンプールで名店巡り。ナシチャンプルとナシレマッ専門店
PAGE TOP