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マレーシア料理の地域性について考察

Malaysia Gohan Kai Report マごはんメンバーズ向けメルマガ(発行日 13/Apr/2020)を加筆修正したものです 


日本の北海道と沖縄の食文化が異なるように
マレーシアでも地域によって人気の料理や好まれる味は異なる。


今回は地域性という観点からマレーシアごはんをひも解きます。

地域性を象徴する料理、ラクサ

ご存じラクサ。マレーシアやシンガポールでよく食べられているスパイスの効いたスープ麺。

マレーシアのラクサは、地域ごとにさまざまな味があります。日本のラーメンが、関東は醤油ラーメン、九州はとんこつラーメン、北海道は味噌ラーメンのように味が異なるの同じ。

今でも覚えているのは、クアラルンプール(KL)のレストランで、友人にすすめられて初めて「ペナン・ラクサ」を食べたときのこと。そのころKLに住んでいたわたしは、ラクサといえばカレー味だったので、あまりの味の違いにびっくり。ペナンのラクサは、酸っぱい魚のスープに、けっこうキツイ匂いの海老ソース。衝撃すぎて、正直、そのときはあまりおいしいと感じませんでした。

ところが、それから数年後、ペナンを旅したときに現地の屋台で食べてみたら、今度はこれがもう、びっくりするぐらいおいしい! 同じ酸っぱい魚のスープに海老ソース。でも、本場で食べると、こんなにも違うのか、としみじみ。食材の質のよさ、職人の技。そして、その料理を愛する地元の人たちが大切に育ててきた郷土の味はやっぱりすごいな、と思ったものでした。

不思議なもので、ペナンでおいしさに目覚めたら、KLでペナン・ラクサを食べても、ちゃんとおいしく感じられるんです。本場の味を食べたおかげで、脳内の美味回路がバシッと開通したのでしょう。そういう意味でも、郷土料理をその土地で味わうのは大事なのです。

★下記の資料では、マレーシアの9つの地域(クランタン、ケダ、ペナン、ペラ、クアラルンプール、マラッカ、サバ、サラワク)のエリア事情と地域の代表料理を紹介。またPage4ではラクサ情報を紹介しています★


マレー半島北部、南部、ボルネオ島の3つの区分で考えよう

マレーシアは現在、13州と3つの連邦直轄区が置かれています。どのエリアも海に面しているので、全土どこでもシーフードをよく食べます。稲作がさかんで、主食は米(うるち米)。米はおかずと一緒に食べるだけでなく、「クイティオ」という麺に加工したり、餅のように押し固めた「クトゥパ」や「ナシインピ」にして肉料理にあわせるなど多彩なアレンジがあります。これは全国共通の味です。

食文化の地域性は、大きくわけて、マレー半島の北部、マレー半島の南部、そしてボルネオ島の3つに分かれています。


マレー半島北部はさらっと酸味。南部はどろっと濃厚。

文化人類学者の石毛直道さんの著書『世界の食べもの』(講談社学術文庫)のなかに、「マレー半島の北部は、13世紀以来南下するタイ族の征服を何度も経験しており、タイ料理の影響をうけ、南部インドネシア風の乾いた料理にくらべるとスープ煮など汁気がおおい料理となっている」と記載からみえるように、マレー半島の北部はタイ、南部はインドネシア料理の影響を受けています。距離的、歴史的に近いためです。

具体的にいうと、北部にあるペナン州やクランタン州はスープ麺(といっても日本でいうスープではなく、つゆ多めの“汁だく”ぐらいの麺も多い)を好み、タイ料理でよく使われる酸味のある「タマリンド」が調味料の定番。また、香りの強いハーブや生野菜を薬味のように使います。

それに比べて、南部のマラッカ州やジョホール州は、時間をかけてじっくり煮込んだ料理を好み、煮込むことで汁気は少なく、味は濃厚。多種のスパイスやハーブを使い、スープのなかにそれらが溶けこんでいて奥深い味を作り出しています。インドネシアでも人気の「ルンダン」は、その代表的な料理です。


ボルネオ島の料理は、素材の味重視

ボルネオ島の料理は、スパイスやハーブは多用せず、唐辛子の刺激はひかえめ。たとえば、塩で味つけした鶏の竹筒蒸し「アヤムパンソ」、柑橘類の酢でしめた魚料理「ヒナヴァ」など、シンプルな調理法で、素朴な味を好みます。また、収穫祭などの行事では米の酒をよく飲みます。

このように、どの地域で、どの料理を味わうかで、マレーシア料理に対するイメージはがらりと変わります。これこそがマレーシアごはんの醍醐味。そのため一度旅をすると、今度は別の地域の味を試してみたくなり、またマレーシアに行きたくなる。そこから、永遠に終わらないマレーシアごはんの旅が始まるのです。


暮らしている人の民族比率が食文化に与える影響

このような地域の違いはなぜうまれるのか。それは、風土、歴史、そして、その土地に暮らす人々の民族性に関係があります。

多民族がともに暮らすマレーシアは、地域によって住人の民族比率が異なります。たとえば、中国系が多く暮らすペナン州とマレー系の多いクランタン州では、料理に使う食材や好まれる味の傾向など、民族による嗜好の違いが食文化に影響を与えています。

具体的にいうと、ペナン州では豚肉を使った料理がありますが、クランタン州に豚肉料理はなく、かわりに、鰹カレーや魚のおやつが多数あります。また、鶏とご飯のコンビ「チキンライス」は、ペナン州では中国系の“海南鶏飯”が中心ですが、クランタン州ではタレをぬってローストしたマレー系の“ナシアヤム”が人気です。

そして、民族比率は歴史と関係があります。避暑地で有名なキャメロンハイランド。中心地タパーの大通りにはインド料理の食堂が複数並んでいます。この地域は、イギリス占領下にあったころ、多くのインド系移民が連れてこられ、紅茶園で働いていました。その歴史が今のカレー店の多さにつながっているのです。

余談ですが、カレー風味のおやつ「カレーパフ」にも、地域性があるのをご存じですか。マラッカでは片手でつまめる小さいサイズ。ペナンではできるだけ具の多い大きいサイズが人気。そのため、マラッカ出身の友人が家でカレーパフを作ったところ、ペナン出身の旦那さんに「小さいっ!」と驚かれたとか。こんなところにも地域差があるんですね。


故郷の味がナンバーワン

以前読んだ本に、次のようなことが書いてありました。同じ(似た)言語や習慣をもつ民族という観点でみると、マレー系ならインドネシア、中国系なら中国やシンガポール、インド系ならインドなど、自国以外に膨大な仲間がいるのがマレーシア人の世界だ、と。

たしかに、インドネシアで活躍するマレー系の歌手がいたり、香港のテレビ番組がそのままの言語で放送されていたり、タミール映画がインド系に大人気だったりと、マレーシア人は、国という枠を飛び越え、民族という大きなくくりのなかで、さまざまな文化を楽しんでいます。

ところが、食文化に関していえば、わたしが出会った多くのマレーシア人は「故郷の味が一番おいしい!」と口をそろえて言うのです。

たとえば、ジョホール州出身の中国系の友人は「日本ではペナン料理が人気だけど、僕の故郷のジョホールの料理のほうがおいしいのになぁ」とブツブツ。同じ中国系のペナン料理よりも、自宅近所のインド系食堂の味のほうを絶賛します。

つまり、民族の味より、故郷である地域の味に誇りをもっているのがマレーシア人。それは、家族を大切にするマレーシア人が、幼いころに家族と一緒に食べた味をじぶんの生きる核にしているからでは、と思います。

マレーシア人が、胸をはって故郷の味が一番おいしい、と言うこと。そのことが、地域の味を多彩にし、そしておいしくしているのです。

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食文化の地域性について、資料にまとめてみました。拡大して、ご覧ください。

参考文献:『マレーシア百科200項目』(大槻重之著/関西電力(株)燃料部)、『もっと知りたい マレーシア』(綾部恒雄・石井米雄著/弘文堂)

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