ジャーナル

「多民族国家マレーシアにおけるアートプロジェクト」F/Tトーク Part.01

F/T Talk by Mr Fairuz and Mr Roslisham Ismail, Part.01

フェスティバル/トーキョーのアジアシリーズ。2014年は韓国、15年はミャンマー、そして3回目の今年は、マレーシアがテーマ国。マレーシア人アーティストが来日し、さまざまなテーマで公演。そのなかのひとつ、東京芸術劇場で開催されたファイルズさん(Mr Fairuz)とイセさん(Mr Roslisham Ismail、通称Mr Ise)のトークを聞いてきた。

dsc_0065コンテンポラリー(現代的)な手段でアート表現をするファイルズさん(写真右)

ファイルズさんは、活動のなかでこんなことを考えるという。

「人がどのようにアートを体験するのか。ギャラリーに訪れることがアートに触れることじゃないんだ。アートはギャラリーのなかにあるものじゃないから」
「(2015年に「CULTURETOPIA」を企画した際に)ペナンが観光地化されたことで、町は変わった。観光客が来ない場所は死に向かっている。その場所にエネルギーを注入したかった」(ファイルズさん)

アートとは、美術館や博物館に展示されているものではない。わたしたちの身近にあるものだ。アートは、わたしたちとともに生き、ゆらぎ、変化し、ときに絶える。世界遺産に登録されたことで観光地化されていった町には、その影響で死んでいくスポットがあることに気づかされた。

イセさんは、じぶんのことを「オブザーバー(観察者)」とよぶ。2015年シンガポールにて「シンガポール・ビエンナーレ」に参加し、冷蔵庫をテーマにしたアート展示で話題となった。

シンガポーリアン6家族が、普段の冷蔵庫の中身を会場で再現した。「1年間かけて彼らと信頼関係をきづいた。それがリアルな冷蔵庫の作品につながった」とイセさん

「人間が生きるための原動力は、食べもの。そうだ、冷蔵庫! 冷蔵庫は、人々の生活にある個人のシークレットボックスではないか!」(イセさん)

他人の冷蔵庫の中をのぞくというワクワク感、タブー感。この作品はたちまち話題になり、およそ3万人の観客が訪れたという。

次にイセさんは、生まれ故郷の田舎町コタバルに活動の拠点を移し、伝統料理のレシピ保存プロジェクトに取り組む。

きっかけになったのは「ナシケラブ(※)」。ハーブ・生野菜・ココナッツの実・焼き魚などをごはんに混ぜて食べる料理で、“Nasi=ごはん、Kerabu=野菜サラダ”という名前のとおり、さっぱりとした味わい。コタバルの伝統的な料理である。このごはん、青い花びらの天然色素で色を付けることが多いのだが、最近ではこの青色に人工的な着色料が使われることも。このことに危機感をもったという。

dsc_0830コタバルのバスターミナルで食べたナシケラブ。ごはんが全体的に青色。味や匂いはしないので、ふつうのごはんと同じ味

そこで、料理上手のおばあさん(お祖母さんの妹)と一緒に、レシピ本を完成させた。

(右)古代王国の名前「Langkasuka」を冠した伝統料理のレシピブック。(左)バナナの葉っぱに色んなおかずをのせた伝統的な食卓を囲む人々(Photo by magnus caleb)

クックブックの完成後、今度は「ナシケラブを味わってもらう」というプロジェクトで、6か月間アメリカのニューヨークに滞在。イセさんの作ったナシケラブは、多くのニューヨーカーを魅了したという。

「ナシケラブの複雑な味は、おかずをうまく合わせないと消え失せてしまう。おすすめは、揚げ魚などフライ系。できればレンダンやカレーなどのグレービーな味は避けたほうがいい。それらをビビンバのように、見た目はイマイチかもしれないけれど、しっかり混ぜること。そうして食べると、1000もの味が口の中に広がる、エキゾチックな味わいになるんだ」
「ごはんは伝統的な青色で提供した。アメリカ人の反応はすごくよかったよ。天然色素ということを説明したら納得してくれたし、みんなとても興奮していた」
「これからも多くの人にマレーシア料理を食べてもらいたい。味覚はずっと忘れないから」(イセさん)

またイセさんは、このプロジェクトで得た成功について、こうも語っている。

「クックブックを出版できたことはひとつの成功だ。でも、それ以上に僕がうれしかったのは、この仕事のおかげで、おばあさんとの関係が深まったこと。兄夫婦や妹がコタバルの実家によく帰ってくるようになったこと」(イセさん)

何が成功なのか。それは、人によって違う。でも多くのマレーシア人が、家族が喜んだことをいちばんに挙げるように感じる。以前インタビューをした「マレーアジアンクイジーン」店主のチャーさんもそうだった。

料理には、人と人をつなぐエネルギーがある。それは軽々と国境を越え、民族や人種や年齢というような壁をとっぱらう。いちばん大事で、ときにむずかしい、ファミリーとの関係さえも。

そして、「ナシケラブ」のような、その土地でちゃんと愛されている料理には、そこで暮らす人々の息づかいのようなものが溶け込んでいる。だから、そういうごはんを食べると、その国がぐんと近くなるのだ。ニューヨーカーもきっとそうだったに違いない。料理をとおして人々の体温のようなぬくもりが伝わり、忘れられない記憶として刻まれるのだ。

(※)正確な発音は“ナシクラブ”とも言われる

PART2に続く~

関連記事

  1. ハリナシバチのはちみつ。味がいろいろって本当?
  2. ご参加ありがとうございました! マレーシアと南インドのコラボプレ…
  3. 連載中! タンマリのマレーシア家族のごはん Vol.02
  4. いつか旅に出る日『BRUTUS』にマレーシアの朝食が掲載されまし…
  5. 春節のお祝い料理「イーサンの会」(終了)2020鼠年の福をみんな…
  6. 人の言葉、人の笑顔。それらはじぶんが思っている以上にパワーがある…
  7. タイ・マレーシアフェア(終了) 10月7、8日 羽田空港にて
  8. 連載中! タンマリのマレーシア家族のごはん Vol.03

コメント

  1. この記事へのコメントはありません。

  1. この記事へのトラックバックはありません。

おすすめ記事

  1. コクと香りNo.1 ! マラッカで食べたニョニャ・ラクサ
  2. ペナン・レマッ・ラクサ Penang Lemak Laksa
  3. トレンガヌで食べたラクサムはどことなく洋風
  4. ジョホール・ラクサはスパゲティの麺に魚ソースたっぷり
  5. 香り豊かなサラワク・ラクサ、驚きのスープ活用術
  6. コタキナバルで人気のラクサの店「イーフン」は創業39年
  7. ラクサ・テロー・ゴレン・ブルサラン Laksa Telur Goreng Bersarang
  8. マレーシアの多様なご当地ラクサは、4つの定義をおさえよう!
  9. マレーシアの郷土菓子は圧倒的に緑色。5つの特徴を解説
  10. ペナンの郷土菓子は、もっちり、やわらかいのが特徴
PAGE TOP