Malaysian Dim Sum Culture
飲茶が大好きだ。マレーシアは、いたるところで飲茶・点心を楽しめる。たとえばホテルの朝食ビュッフェ、1個単位での店頭販売。チャイナタウンや夜市では、カラフルにおめかしした焼売が竹の蒸篭のなかでほかほかに蒸されている。マレーシア人にとって、点心は日常食。20年もの間、ペナンの飲茶の人気店として君臨している「大東酒樓」にご協力をいただき、マレーシアの飲茶文化をひも解いてみようと思う。
東南アジアの国のなかで、ここまで飲茶文化が根づいている国は、ほかに無いと思う。国民の30%近くを占める中国系の民族が大切に守っている食文化。あまりにも彼らがおいしそうに食べるものだから、最近ではハラルの飲茶店(イスラム教徒のルールにのっとった調理法)もあり、マレー系のあいだでも飲茶ファンは増えている。
マレーシア全土を見渡すと、とくに飲茶がさかんなエリアといえば、クアラルンプール、イポー、ペナンだろう。クアラルンプールは東京と同じ理由で、あらゆるおいしいものが集まっているから。イポーとペナンは、中国系住人の多い町なので、彼らが好む中国系のグルメがひしめきあっており、飲茶はその代表格だ。
さて、首都クアラルンプールから飛行機で約1時間。マレー半島の西側に位置するペナン島。世界文化遺産の都市ジョージタウンに、人気の飲茶専門店「大東酒樓(タイトン/Tai Tong Restoran)」はある。かつてはウェディング専門のレストランだったが、1996年より飲茶専門店として営業をスタート。
「大東酒樓」の前社長、レオンさん。現在は、製麺工場や月餅ブランド「LEONG YIN」を手がける。「LEONG YIN」は、日本を含め世界16カ国に輸出し、マレーシア最大の蓮の実をベースにした“あん”(約400種類も!)および月餅のメーカーである
マレーシアでは、飲茶は朝食の文化。まだ夜が明けきれない朝6時ごろからお客が訪れる。週末は朝7~8時ごろが混雑のピーク。家族で丸テーブルを囲む姿をよく見かける
マレーシアの飲茶店は、とにかくにぎやかだ。蒸したての点心が入った竹の蒸篭。それらをうず高く積んだワゴン押しのおばちゃんが店内をねり歩き、食べたい人が「こっちこっち!」と呼びかける。メニュー表で注文するのではなく、熱々に湯気のあがる点心を目の前に、「これ食べる?」「これもいいね」「いや、あれにしよう」と皆で相談するものだから、店内はわいわいがやがや。
この雰囲気。みんなが食事に集中して、そこにいっさいの疑問がない、まっとうな食事の時間。これぞ飲茶店の醍醐味。
さて、飲茶店のルール(たいそうなものじゃないけど)を簡単に説明しよう。席に座ったら、まず好きな茶葉を選ぼう。ウーロン、鉄観音、プーアール、ジャスミン。どれもおいしいけど、私はいつも「プーアール」(広東語でボーレイ)。すこしクセのあるお茶の味が、ジューシーな豚肉の脂をさっぱり洗い流してくれる。
お茶がポットで運ばれてきたら、人数分+@(祖先のため、もしくは、すぐに次が飲めるよう冷やすため、といわれる)の湯飲みにお茶を注いで、ワゴンを押しているおばちゃんを呼ぼう。
マレーシアの点心は、ワクワクするぐらい種類が多い。それらをおばちゃんがどんどん運んでくる。注文方法は「これ!」と食べたいものを指でさしてテーブルの上においてもらう。それだけ。
ときに、見やすいようにおばちゃんがテーブルの上にじゃんじゃん蒸篭を置いてくることもある。この場合は、必要なものキープして、食べないものは「これは要らない」と戻してもらうようジェスチャー。要らない、という意思表示が日本人的には戸惑うけれど、食べたい、食べたくない、という己の食欲に忠実になるのが、飲茶店では大事。
20年勤務するベテラン、リムさん。蒸したて熱々で提供できるように、ワゴンはガスボンベ付の移動式蒸し器になっている。蒸しものと揚げものは、別ワゴンで運ばれてくる
マレーシアの定番のメニューはこちら。
ハーガオ(海老しゅうまい)RM4.50、海鮮蒸し餃子RM4.50、焼売(豚肉+海老、芋入り)各RM3.70、ふかひれ餃子RM5.50。通常の点心の皮は、うき粉(小麦粉のでんぷん)でつくるが、透明な弾力のある皮はコンスターチによるもの
毎朝市場から届く新鮮な海鮮でつくる「大東酒樓」の飲茶は、王道かつ上品な味。海老のはねるような弾力、透明で甘い豚の肉汁。ジューシーな味わいながらも、あと味はくどくない。他の飲茶店では、チリソースと甘醤油の2種のタレが添えられることもあるが、ここの点心はしっかり味付けされているのでタレは不要。お肉と海鮮の本来のうま味が味わえる。
いかん、これは何個でも食べられてしまう! 食欲マックス、そしてエンドレス!揚げものもおいしいのだ。
揚げ餃子RM4.00、湯葉餃子RM4.00、ごま団子RM4.00、大根餅RM5.50
さらに、お店自慢のチャーシューパオ。皮がふわふわで、噛みしめるごとにほのかな甘みが広がる。うまい、うますぎる!
甘く煮た叉焼に合うように、改良を重ねた皮。チャーシューパオRM2.00
これら定番飲茶に加え、「大東酒樓」オリジナルの商品で、お客さんのハートをぐっとつかんでいるのがキングパオ。
作るのが大変なので、1日100個限定。両手で包みこめないほどのデカサイズ
キングパオRM6.50のなかには、チャーシュー、鶏肉、椎茸など、具がごろごろ入っている。まるで点心の玉手箱や~。これ1個で満腹になりそう
そして最近、マレーシアの飲茶店で流行しているのが、これ。「流砂包」。黄色の皮のなかに包まれているのは、アヒルの塩漬けの黄身をベースに、ココナッツミルクも加えたクリーム。甘くて、ちょっとしょっぱいという、なんとも不思議で一度食べると忘れられない味。わたしはかなり好みです。
熱々の状態で食べるのが大事。なかからとろ~んと特製クリームが現れるので、それをすすりながら食べる
「大東酒樓」は、すべての料理を2階の厨房で手作り。なんとマヨネーズまで自家製という徹底ぶり。
ジェームス店長(右)は、船上レストランの経験を持つ。材料の買い出し、仕込み、調理、他店の動向チェック、メニュー開発、お客さんのリクエスト対応まで、なんでもこなす。職人は朝5時に出勤。6時から営業スタート
ぷりぷりの海老が、次々に調理されてく
「日々、味は進化している」とジェームス店長。というのも、昔は濃厚でこってりとした味が好まれていたが、最近のマレーシア人はさっぱりとフレッシュな味を好む。日本と同じで、ヘルシーというキーワードに敏感な人も多いという。
大事にしているのは、蒸したて、揚げたて、そして新鮮な食材を使うこと。それらすべてがそろわなければ、他店との競争には勝てない、とジェームス店長は言う。
「うちの大根餅は具だくさん。干し海老や叉焼や色々入っていておいしいよ~」ジェームス店長
かつて日本人街と呼ばれたシントラ通りにある「大東酒樓」
マレーシアで暮らす前は、こんなにも飲茶が愛されているアジアの国があることを知らなかった。アジアの料理といえば、辛くて、赤くて、香辛料たっぷりなものばかりだと思っていた。そんなことないんです。マレーシアの味、いやアジアの味は、ひとつではなく、色々ある。奥が深いのだ。
取材に協力して下さった「大東酒樓」の皆さん、ありがとうございました!
Tai Tong Restoran / 大東酒樓
住所:45,Lubuh Cintra,10100 Penang
Tel: +60-4-263 6625
営業時間 6:00~14:30、18:15~23:00
※月に1回休みあり
※このお店は夜も飲茶が味わえるそうです!(ただし夜はチーチョンファン、お粥は無し)
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