お土産

マレーシアの伝統工芸品、ピューター

Traditional Malaysian Pewter, ROYAL SELANGOR

マレーシアの伝統工芸品、ピューター。錫(すず)を主成分とした金属製のアイテムで、カップやティーポット、ビアマグなど食卓を彩るテーブルウェアから、花瓶や写真たてなどのインテリア雑貨まで幅広い商品をそろえ、マレーシアを代表する土産品としても親しまれている。マレーシアでピューターといえば、真っ先に名前の挙がるブランドが「ロイヤルセランゴール(Royal Selangor)」。国王が唯一認めた由緒正しいブランドで、創業130年を誇る。純粋な錫を92%以上使った高品質さが特徴だ。クアラルンプール中心地から車で30分ほど、約300人の職人が働く工場を訪ねた。

ロイヤルセランゴール社の歴史

ロイヤルセランゴール社の創始者ヨン・クーン氏は、中国・山東省の出身。1885年、20歳の若さでマレーシアに渡り、起業した。当時、マレー半島の錫の採掘量は年間4万トンで世界1位。そのため多くの錫職人や商人が、商機とばかりにマレーシアへ。ヨン・クーン氏もそのひとりだった。

家族経営でスタートしたビジネスは、兄弟分裂などの危機に合いながらも、1992年にマレーシア国王から「ロイヤル」の称号を与えられる。現在はクアラルンプールのセタパ地区に工場を構え、約300人の職人(うち70%は女性)が働く世界最大のピューター工場となった。世界20か国以上に輸出する製品すべて、ここで生産、管理している。

同社のピューター製品は、マグカップ、茶器、花瓶、写真たてなどの実用的なアイテムから、観音像などの置物、スターウォーズやディズニーとのコラボグッズなど、じつに多彩。

マレーシアにいくと、かならずお店に立ち寄るのだが、そのたびに新商品と出会えてワクワク。ちなみに先日は、ピューター製のメモリスティックを発見! それも表面にエレガントな彫刻が施されていて、思わず見惚れてしまった。高い技術力とたえまない企業努力、それがロイヤルセランゴール社のモットーだ。

ビジターセンターを見学。ピューターの歴史を学ぶ

さて、今回の取材の目玉、工場見学の様子をレポートしよう! 工場に併設されたビジターセンターの見学ツアーは、誰でも無料で参加ができ、前日までに電話で予約をすれば、クアラルンプール中心地からの送迎も可。

dsc_0812

今回案内してくれたのは、日本語を流暢に話すメイさん。英語も中国語もペラペラの才女。まずはピューターとロイヤルセランゴール社の歴史について説明してくれた。

その昔、錫は貨幣として利用されていた。写真と合わせて説明すると、まず下・左の写真。左右に枝がツンツンと伸びているようにみえるツリー型の錫が、昔の貨幣。先端についている5円玉ぐらいの大きさのものをコインとして活用していたそうだ。中央の写真、亀やトカゲの動物を象った錫商品も貨幣の1種。重さで貨幣価値が決められていた。

そして右の写真。展示品のなかで、ひときわスポットライトを浴びて輝いていたティーポット。エレガントな流線型が美しいメロン型の紅茶ポットは「伝説のメロンポット」とよばれている。第2次世界大戦のころ、この商品のおかげで命拾いをした青年の逸話があり、幸せを運ぶラッキーポットとして、現物が今も大事に展示されている。

そのほか、伝統的な錫商品のデザインとして紹介されたのは、茶筒。日本の家庭にも茶筒はよくあるが、中国系マレーシア人にとってもお茶は日常に欠かせないもの。密閉性にすぐれ、匂いのつかないピューターの性質を好み、大事なお茶を保管していたという。

ピューター製品の作り方を学ぼう!

次に向かったのは、ピューター作りの工程を学ぶコーナー。勤続30年のマリアさんが、どろどろに溶かしたピューターを型に流し込み、ビアマグの取っ手部分を作っている工程を見せてくれた。どろどろのピューターの温度はなんと260度! そのため手袋は3枚重ね。またたく間に固まってしまうので、手早さも大事。

ピューターは、金属でありながら、程よいわからかい性質があり、そのおかげで加工しやすく、繊細なモチーフを施すことができる。表面を削ってマット調にしたり、ドット調の凹凸をハンマーでつけたり。この「ハンマリング」という加工を特別に体験させてもらった。

1枚目の写真は、職人が仕上げたもの。均等の間隔で、同じ力でたたくことで美しいドット型になる。2枚目の写真、1段ずつ順に仕上げていく職人。リズムがよくスピードも速い。そして3枚目は私がたたいたもの。む、む、むずかしい……。素人はこうなる。ドットの大きさはバラバラで、たたいた場所も均等ではない。職人のような技を習得できるには、半年はかかるという。

熟練の職人がひとつひとつ手作業でしあげる美しいフォルム。それが、金属のもつクールさのなかに、あたたかさをくわえているのだ。

ひととおり見学が終わると、ピューター作りを実際に体験できるプログラムに参加できる。これが楽しい!

好きなピューター製品を作ってみよう! 

灼熱260度のピューターの世界を体験できる「The Foundry/ザ・ファンドリー」(参加費159リンギット/所要約1時間/2名以上で開催/要予約)。このコーナーでは、じぶんで型を選んで、ブレスレッドなどのアクセサリー、ペーパーウェイトなど、好きなアイテムを自由に作ることができる。失敗したら、熱々のピューター窯に材料を戻してせば、何度でもやり直ししができるので、気楽に楽しめる。作った製品はお土産としてもらえる。

「School of Hard Knocks/スクール・オブ・ハード・ノックス」(参加費63.60リンギット/所要約30分/2名以上で開催/要予約)は、プレート状のピューターをハンマーでたたいて、カーブ状に変形させる工程が体験できる。均等にカーブさせるのはけっこう難しいが、集中してトントン叩いていると、日頃のうっぷんがすっかり消えてしまったような爽快感。プログラム体験後には、じぶんの作った商品に加えて、終了書とエプロンがもらえるので、いい思い出になる。

そして、世界No.1のアイテム数をほこる併設のショップでお買い物……の前に、ぜひ、グランドフロアにあるカフェに立ち寄って欲しい。おいしいケーキや自慢のマレーシア料理が食べられるし、あの人気商品のメロンポットでお茶が飲める。大きな窓ガラスを配した明るいカフェは、緑の木々に囲まれ、とてもリラックスできる空間。このカフェでお茶を飲みながら、ロイヤルセランゴール社の歴史に思いを馳せるのもいい。

ロイヤルセランゴール社の海外展開を支える職人たち

現在ロイヤルセランゴール社には、約40人のデザイナーが勤務している。マレーシア人のほか外国人も登用し、ときに海外ブランドとコラボすることも。また、グローバル展開をし、マレーシアのほか世界7カ国にオフィスを構え、日本では銀座の和光や日本橋の高島屋など、全国約30箇所の百貨店と提携。日本でも購入することができる。

その海外展開をささえているのが、ここの工場で働く職人たちだ。朝8時~夕方5時まで、ひたすらピューターと向き合う。その多くが勤続20年以上のベテラン。6カ月の訓練を経て、1人前になるまでは約3年以上。また、職人の70%は女性で、手先の細やかさがその理由だという。ビジターセンターには、5年以上働いた職人の手形が壁一面に誇らしげに飾られていた。

最後に、ロイヤルセランゴール社の取締役、ダティン Mun Kuen さんと記念撮影。ダティンは、初代ヨン・クーン氏のお孫さん。素敵なチャイナ服に着こなし、笑顔がとってもチャーミング。あたたかな人柄のなかに凛としたオーラも感じ、すっかりファンに。こんな人になりたい。


取材をして感じたのは、この世の中に存在するすべての事柄には歴史があり、それを支える人たちがいる、ということ。そのことを知れば知るほど、私を取り巻く世界が、色濃くなり、私に寄り添ってくる気がする。わが家にあるロイヤルセランゴールのビアマグが、取材する前よりも手になじみ、よりあたたかく感じられるのは、決して気のせいではないと思う。

取材・文・撮影 Oto Furukawa(Malaysia Food Net)
May/2016 取材

Royal Selangor Visitor Centre
http://jp.royalselangor.com/visitor-centre
住所: 4, Jalan Usahawan 6, Setapak Jaya
53300 Kuala Lumpur
Tel:  +60 3 4145 6122
Opening Hours 9am – 5pm daily

関連記事

  1. レマン
  2. イポーで、果物「ポメロ」農園を見学
  3. Instagramにて最新情報を発信しています。
  4. マレーシアごはんツアー2018年10月(満員御礼!)「ボルネオ島…
  5. レポート。屋台祭り(終了)5月26日(日)「ロティ祭り&タンドリ…
  6. ナシダガン
  7. ビーフルンダン Beef Rendang
  8. ロントン

コメント

  1. この記事へのコメントはありません。

  1. この記事へのトラックバックはありません。

おすすめ記事

  1. アパンバリ Apam Balik
  2. サンバルプタイ Sambal Petai
  3. バナナリーフライス Banana Leaf Rice
  4. オタオタ Otak Otak
  5. チキンウィング Chicken Wing
  6. プロウンミー Prawn Mee / 海老麺
  7. ワンタンミー・ドライ Wantan Mee Dry / 叉焼雲吞麺・乾
  8. チェンドル Cendol
  9. オンデオンデ Onde Onde
  10. ピサンゴレン Pisang Goreng
PAGE TOP
%d人のブロガーが「いいね」をつけました。