Malaysian WAU professional
カラフル凧に魅せられて。その道一筋の職人の姿
別ブログにて 2013年7月08日に配信 食ではなく、美しい凧について、レポートします。
クランタン州(ケランタンともいう)は、日本でいう東北のような場所で、マレーシア伝統芸能の発祥の地。少数ではあるけれども、今もなお凧や影絵などを手作りする職人が暮らしている。
白色に塗られた木造作りの小さな作業場。ここにマレーシアの伝統凧「ワウ」を46年間作り続けているシャフィーさんがいる。
小さな作業場のドアの左右には「Visit Malaysia」の文字。このポスターを見て、ハッと気づいた。この観光を促すポスターが伝えたいのは、大都会のクアラルンプールだけでなく、この静かな田舎町で、1人もくもくと凧を作り続けているシャフィーさんも含まれるんだってこと。国の魅力、土地の魂。そういうものは、もしかしたら都会にはもう無くなっていて、このような小さな町にこそ、息づいているのかもしれない。
靴を脱いで、作業場に入る。天井から色鮮やかな凧がたくさん吊り下げられていて、とても綺麗。一緒に行ったマレーシア人のカメラマンでさえも興奮気味にシャッターを切る。
カイトマスターのシャフィーさんは、歓声をあげて写真をとりまくる私たちの横で、こちらをちらっと見ることもなくもくもくと作業を続けていた。竹のしなり具合を何度も何度も確かめながら、すこしずつ削っていく。
シャフィーさんは、凧を作り続けて46年。凧に魅せられ、学校を中退。マスターに師事することはなく、オリジナルの技術で凧を作り続けている。そのため字は読めるけど書くのは難しい。購入した凧にサインをお願いしたら、丸っこくてかわいい絵文字でサインをしてくれた。
それにしてもマレーシアの凧はなんて美しいのだろう!どれだけ見ていてもあきない。マレーシア凧のモチーフの特徴は、花とツル。花は女性、ツルは男性の象徴。凧の形は3種あり、この作業場で作られていたのは、下部分の三日月状になっている「ワウ・ブラン」Wau Bulan。ワウとは凧のこと、ブランは月という意味だ。
凧のことをワウと呼ぶのは、凧の裏に取り付けられた1本のテープの音に由来がある。左右にピンと張られていて、それが風にのって音を出す。バイオリンの弦が風と踊っているような音が「ワウワウワウ」と聞こえるため、そこからワウと名付けられた、という説。
ちゃんと音が出るのかを確かめるカイトマスター。
もうひとつ、空に浮かぶアートともよばれる美しいマレーシア凧。その魅力に見ている人が「ワオ!」と驚くから、ワウとなった、というかわいい説もあるらしい。
ここで実際に凧を飛ばしてみよう!ということになり、みんなで海岸に出かけた。大きいものは幅2~3メートルにもなるが、今回持っていったのは中ぐらいのもの。シャフィーさんが、見事に凧をあげた!
「オトもやってみたら?」と幸運なお誘いをうけ、おそるおそるも紐を引っ張ってみたが、なかなかうまくいかない。風の抵抗がものすごくて上にあがらない。あぁ・・・凧あげ、日本でも練習しておけばよかった・・・。河川敷で最近よく見かけるのになぁなんて思ったが、今さらである。
この日は、風が強すぎたようだ。シャフィーさんのマレー語が3語だけ理解できた。アンギン=風、クアッ=強い、ポコ=木。これから想像するに、風が強すぎて木にひっかかったら大変、と話していたのだと思う。
でも1回だけでも、凧が揚がっているところを見られて本当によかった。
まさに空に浮かぶアートだった。くっきりとした縁取り、特徴的な形が真っ青な空にくっきり映えた。
日本に帰国し、高田馬場のマレーシア料理店「大地の木」シェフのアスリさんにお土産のワウを見せたら「僕、小さいころ、よくワウを空にあげてたよ。得意だったんだ」と。子供のころのアスリさんがワウで遊ぶ姿を想像したら、なんだか楽しくて。アスリさんのあげた凧は、風に乗ってどこまでも飛んでいったのだろう。
きっと今日もきっと、カイトマスターのシャフィーさんは作業場の縁側で凧を作り続けている。そして風に聞くのだ。今日は飛んでもいいかい?と。
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