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マレーシア東海岸の魅惑の調味料ブドゥ

Malaysian Kelantanese favorite sause, BUDU

魚と塩を漬けこんで発酵させた、マレーシアの魚醤

別ブログにて 2013年7月17日に配信

マレーシアの東海岸、ケランタン(クランタンとも発音)・トレンガヌ地域。そこに暮らす人々が愛してやまない液体調味料「ブドゥ」。カタクチイワシを発酵させてつくる調味料で、タイのナンプラー、ベトナムのヌックマム、秋田のしょっつると系統は同じ。魚と塩を漬けこんで発酵させた調味料、いわゆる魚醤である。

ブドゥは精製するときに加える水の量が少ないため、ナンプラーなどに比べると濃度が高く、形状はとろっとしている。イタリアンで使われるアンチョビをそのまますりつぶしたような濃い塩気、そして独特な魚の匂い。しょっぱいもの好き、臭いもの好きな私でもけっこう強烈に感じる味だが、これが生野菜、魚、パラパラごはんのおいしさをグーンとアップしてくれるのだ。

コタバルのレストラン「ナシウラムチェグゥ」で食べたブドゥ入りのソース。シンプルな炭火焼の魚や生野菜のつけタレとして食べる。

このブドゥタレに入っているのは、刻んだレモングラス、玉葱、きゅうり、ライム、ミョウガに似ているブンガカンタン(生姜の花)。手前にある黄色いのは「トンポヤ」とよばれる発酵ドリアン。6ヶ月~1年ほど密閉保存したドリアンで、味は生ドリアンよりもまろやかだが、匂いはしっかりドリアン。魚臭いブドゥに、臭い王様のドリアンを混ぜて、臭いの2乗。けっこう猛烈なタレだ。

こちらは食卓の様子。ブドゥタレは左中央。左上の野菜や右中央の揚げ魚をつけて食べる。

ブドゥは野菜と一緒に食べるのでドレッシングと表現されることもあるが、写真のように別皿に盛られて、スプーンで少量すくって魚につけたり、野菜をそのままディップするので、ドレッシングと言うよりも醤油に近い。野菜をお刺身のように、ブドゥにつけて食べるのだ。

このブドゥは東海岸特有の調味料で、マレーシアのほかの地域ではあまり食べられておらず、ブドゥのことを知らないマレーシア人もいる。でもだからこそ、クランタンやコタバル出身のマレーシア人にとってはなくてはならない味。幼い頃の食卓の匂い。東海岸出身で今は日本に住むシャヒルさんやナザーさんは、帰省するとかならずブドゥを持ち帰ってくるという。

ちなみにクランタン州のコタバルには、小分けパックのブドゥが売られていてお土産に便利。クアラルンプールでは、ジャイアンのスーパーに瓶詰めブドゥが売っている。

さて今回、いろんなラッキーが重なって、ブドゥの工場を見学することができた!

有名ブランド「Budu Cap Ketereh」の工場に潜入!

ブドゥ工場は、タイとの国境近く、川のほとりに位置。わたしの予想をはるかに上回る広大な敷地で、1日で、約200gのブドゥ小瓶が2000~3000本のペースで作られていた。入り口近くの瓶詰め作業場に入ると、全身がブドゥの匂いに包まれた。ブドゥの香りを閉じ込めたしゃぼん玉のなかに入ってしまった、と思ったぐらいに濃厚。漁港に吹く潮風がそこに2~3年たまって熟成しているような強烈さだ。

コタバルでいちばん有名なブドゥメーカー「Budu Cap Ketereh」。瓶詰は手作業で行っていた。

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最初、オーナーが熱を出して帰宅しまった、ということで代わりにアテンドしてくれたエッソさん(写真右)。もちろん、子供のころからずっとブドゥを食べていて、もちろん今も冷蔵庫に常備。ナシゴレンに入れて炒めてもコクが出ておいしい、とのこと。

ちなみに日本に住むシャヒルさんも(クランタン出身)実家のご飯はブドゥはかならずセット。カレーにもご飯がついているので、ブドゥと生野菜付き。お父さんはブドゥがないとごはんを食べない人だそうだ。

1時間ほど工場を見学していたら、熱が下がって(?)復活したオーナーのイスマイルさんが登場。プラスチック製の青いブドゥ樽がいくつも置かれた場所に案内してくれた。

ブドゥの製造工程

さて、ブドゥの製造工程をご紹介しよう。

水揚げされたカタイクチイワシを塩と層にして重ねて、写真にある青いプラシック製のブドゥ樽にいれて半年~2年、そのまま保存。するとカタクチイワシは分解され、褐色の液体が現れる。2年ものの液体となると、たった1滴でも洋服につくとシミになってしまい洗っても取れない。

青空の下に置かれたブドゥ樽。直径2メートぐらい、高さ1メートほどの大きさで、20~30個ぐらい置かれている。


ちなみにカタクチイワシの漁の時期は6~11月のみ。その時期は毎日水揚げされ、毎日仕込みをする。

これがブドゥ樽の中身。深い、深い、褐色。真っ白な布を入れたら、美しいブラウンに染まりそう。ただ匂いは強烈。表面にもろもろ浮いているのは、発酵段階のカタクチイワシ。


イスマイルさんにお願いしてちょっと舐めてみた。


おぉぉ~~、うんまーい!

驚き。全然しょっぱくない。これは、、まさに醤油! それも高級ブランドの醤油のように、旨みたっぷりで甘い。魚の発酵調味料と大豆の発酵調味料、この時点の味はほぼ同じなのね!

次に、この液体に4時間ほどぐつぐつ火をいれて、液体部分だけを濾したら完成。とろっとした形状なので、あまり細かく濾すことはしていないようだ。

 

そして最後にたくさんのお土産をもらって、工場をあとに。な~んて、あたかも取材が順調に進んでいるように書いているけど、実のところ、そうではない。というのも言葉がほとんど通じなかった…。

なぜなら、イスマイルさんもエッソさんも英語が話せない。さらにクランタン州のマレー語は独特の言いまわしやイントネーションがあって、わたしのたった3ヶ月だけ習ったカタコトマレー語では、残念ながらまったく通じなかった。同行してくれたマレーシアのテレビ局のアンナさんが通訳してくれなかったら、えらいことだった。言葉はとても大事。これからも言葉についてはよく準備して取材にのぞもうと思う。

最後に。

この原稿を書きながら、まるであのブドゥ工場にまた自分がいるような気分になっている。なぜなら、匂い。あの強烈なブドゥの匂いが甦っているから。まるで鼻の中にブドゥ分子が潜んでいて、原稿を書いていたらむくむくと生き返ったようだ。

匂いと記憶は、イコールなものなのかもしれない。ダイレクトに脳に結びついて匂いは、記憶を呼び戻す力も強烈。だからきっと東海岸出身の人はブドゥが好きなのだ。なぜなら、故郷とつながる匂いだから。

 

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