現地情報

ブラチャンにかけた情熱。ペナン島とケダ州にて

Malaysian Traditional Shrimp Paste, BELACAN

マレーシア料理にかかせない調味料、「ブラチャン」。小海老やアミ(甲殻類)を塩漬けにし、3週間~4カ月かけて(モノによる)発酵させて固めたもの。鼻をツンとつくような強烈な香ばしさがあり、1度ハマルとやみつきに。同じ製法で作られたものをタイでは「カピ」、インドネシアでは「トラシ」と呼ぶ。マレー半島北西部、隣接する2つの州、ペナンとケダ州のブラチャン工房をたずねた。

まず紹介するのは、ペナンのブラチャン工場「Chop Kim Hoa」。訪れたのは、昼の2時頃、天日で干したペースト状の海老を屋内に取りこみ、機械で細かくねっているところだった。

dsc_0076

実はこの工房で作られているブラチャン、パッケージに書かれた“長い髭のおじいさん”がトレードマークで、スーパーでも流通しているけっこう有名なブランド。黄色のパッケージ(1番上)に見覚えがある人もいるのでは?

そんな有名ブランドにもかかわらず、従業員はたったの5人。父、息子、おじさんという家族経営で、作業場はかろうじて雨がしのげるぐらいのトタン屋根、クーラーなしのオープンな環境。むわっとした暑さのなかで、もくもくと作業が行われている。

dsc_0078

ブラチャンの製造方法は、まず100キロのエビに対し10キロの塩で漬けこむ。引き潮時にエビを入荷したら、できるだけすぐ塩漬けにし、しばらく貯蔵。それから屋外で自然乾燥する。干すのはだいたい朝9時~昼1、2時までの4時間。水分が半分ほどとんだら(100キロの海老が50キロになるぐらい)、機械でペースト状にする。エビはあまり乾燥させ過ぎないことがポイントだ。

次に、ペースト状にしたエビを樽に入れ、2週間発酵させる。

dsc_1402

もう1度天日で干し、また機械でねったら、今度は3~4カ月ほど樽に入れて長期発酵。長い場合は1年ほど保管することもあるという。そして最後にもう1度天日で干し、機械でかき混ぜたら、成型へ。バターのような長方形型に整え、パッキングしたら、ようやくブラチャンが完成。出荷となる。

この工房は創業60年。おじいさんが初代で、今の社長は3代目

家族経営なので休みは自由にとれる、と社長は言うが、逆にいえば、土日休まずに働くこともある、ということ。エビの入荷日程、天気(雨の日には干せない)、発酵具合によって、作業内容は決まる。つまり、人間の都合ではなく、自然の都合にあわせてブラチャンは出来上がっている。

次に、ケダ州の工房では、こんな風にブラチャンを作っていた。

この日は、入荷したばかりのアミを天日に干しているところだった。強烈な潮の匂い。海風を100倍濃くしたような香りに全身が包まれた。

ここではコンパクトなマシーンを使って、干したアミに塩と水を加えてペースト状にしていた。ペナンで見たのは発酵後のアミだったので色が茶色に近かったが、ここでは発酵前のため、フレッシュな浅いピンク色をしていた。

dsc_0644

ペーストにしたら、樽に入れて2~3週間発酵。次に、半日ほど天日に干したら、今度は木の臼を使ってペタンペタンとつく。まるで餅つきだが、てこの原理を使い、足でふんで杵を上下させる。というのも、この作業にかかる時間は2~4時間。念入りに、できるだけ細かくペースト状にしなければいけない。餅つきのように杵を振り上げていたら肩がもたないため、できるだけ力を入れず、長く作業ができる仕組みになっている。

dsc_0629

そして、ケダ州のブラチャンは、ここで完成となる。つまり2次発酵がなく、発酵させるのは1回のみ(2~3週間)。見た目も違っていて、ペナンのブラチャンは濃い茶色だが、ここのブラチャンはグレーがかったピンク色。フレッシュなブラチャンとでも言いたくなるような、香りはすこしやわらかめで上品。新聞紙に包むなど簡易包装をして、マーケット(市場)へ出荷する。

今回取材をしてわかったのは、ほとんどの工程が手作業で行われている、ということだ。いや、これでも、マレーシア人は機械化された、というのだろう。なぜなら昔のブラチャン作りは、石臼でアミをすり潰すところから、各家庭で行われていたのだから。

でも、あきらかに工場で大量生産しているのとは違っていた。いちばん近いのは、家で作っていた味を近所の得意な人にお願いして、その人から購入しているような感覚。「○○さん、ありがとう。今回もおいしかったよ」と、作ってくれた人に直接伝えられる、そんな距離感。食卓を豊かにする調味料が、こんなふうに手に入るというのは、うらやましいなぁ。

取材・文・撮影 Oto Furukawa(Malaysia Food Net)

※ 追加情報。ブラチャンは、発酵させた海老そのものも一緒に固めてしまうため個体だが、発酵でできた上澄み液だけを使うと、ナンプラーやニョクマムとよばれる魚醤になる。もととなる材料が、海老と魚(カタクチイワシなど)で違いはあるが、つまりはブラチャンも魚醤の仲間。またマレーシアには、ブドゥという調味料もあり、これは魚醤とブラチャンの間のような味と濃度。精製するときに加える水の量が少ないため、とろみのある調味料で、鮮烈な塩気がある。

 

 

 

関連記事

  1. マレーシア人の民族性と食文化
  2. マレーシア文化通信【WAU_Vol.15】リリース!
  3. 香り豊かなサラワク・ラクサ、驚きのスープ活用術
  4. マレーシア文化通信【WAU_Vol.20】伝統舞踊劇マヨンの舞踊…
  5. 蜷川実花さんの写真展「trans-kyoto」、クアラルンプール…
  6. マレーシアの伝統工芸品、ピューター
  7. マレーシアのかき氷が具だくさんな理由とは
  8. 【Closed】クアラルンプール、ムルデカ広場前のマレーシアレス…

コメント

  1. この記事へのコメントはありません。

  1. この記事へのトラックバックはありません。

おすすめ記事

  1. コクと香りNo.1 ! マラッカで食べたニョニャ・ラクサ
  2. ペナン・レマッ・ラクサ Penang Lemak Laksa
  3. トレンガヌで食べたラクサムはどことなく洋風
  4. ジョホール・ラクサはスパゲティの麺に魚ソースたっぷり
  5. 香り豊かなサラワク・ラクサ、驚きのスープ活用術
  6. コタキナバルで人気のラクサの店「イーフン」は創業39年
  7. ラクサ・テロー・ゴレン・ブルサラン Laksa Telur Goreng Bersarang
  8. マレーシアの多様なご当地ラクサは、4つの定義をおさえよう!
  9. マレーシアの郷土菓子は圧倒的に緑色。5つの特徴を解説
  10. ペナンの郷土菓子は、もっちり、やわらかいのが特徴
PAGE TOP