オランマカン(食べる人)

People 川畑あるまさん 元・日本ハラール協会

NCM_0834川畑あるまさんは、NPO法人「日本ハラール協会」の元・研究員。マレーシア、インドネシア、台湾などのアジアを中心にハラル事情を調査。日本の食品がイスラム圏に進出するためのサポートや、イスラム教徒の方が日本に観光に来たときの受け入れ支援に力を注いでいます。あるまさんがハラルに触れたのは、大学1年、マレーシアを旅したとき。バスツアーに参加し、ほかの参加者とは違う料理を提供されたり、ひとりぽつんとバスのなかに取り残された。そのとき日本では感じたことのない未知なる世界への好奇心がかきたてられたといいます。マレーシアが好きで、コタバルからパハンまで6年間で15回もマレーシアに行ったという川畑さん。ハラル認証をもつ和のお菓子を手に、インタビューに答えて下さいました。(2013年4月3日)


 

マレーシアで初めてハラルに触れる

音: 活動のきっかけになったのは、マレーシアでの体験だそうですね。

あるまさん: 大学1年のとき、マレー半島を旅しました。バスツアーに参加したときのこと。ほかの参加者がバスを降りるので僕もついていくと、「君は降りなくていい」と言われて、バスにぽつんと取り残されたんです。そこはモスクで、みなさんは礼拝のためにバスを降りたんですね。また、僕だけ別のレストランに案内されることもありました。そのころはイスラム教徒についての知識は皆無でしたから、みんなどこに行ってるんだろう、と知りたくてたまらなかった。その体験が鮮烈で、大学2年のとき、AISECのインターシップに参加して、ジョホールバルに2ヶ月滞在。それからマレーシアにハマり、今は仕事も入れて計15回はマレーシアを訪れています。

マレーシアのハラール認証機関JAKIMにて撮影

大学でアライグマの研究。ハラルに惹かれるのはこの経験があるから

音: 今の活動のきっかけは?

あるまさん: 僕がハラルという概念に惹かれるのは、トサツの考え方です。“命あるものを殺す罪”を神に転嫁できるでしょう。神が罪を引きとってくれる、と言ってもいいのかな。僕は大学で生物学を専攻していて、研究のために毎日アライグマを解剖していたんです。動物を殺す罪をその人が背負わなければいけないのは辛すぎます。僕もアライグマの命に向き合っているときは、とても苦しかった。もしアライグマの研究をしていなかったら、今の自分の活動はないと思います。

音: それからハラルの研究に?

あるまさん: 京都の大学院に進み、ハラルの食品研究を修士論文のテーマに選びました。論文の調査のために「日本ハラール協会」を訪れたのが2010年。それから研究員としての活動が始まり、2012年は、テレビ番組で取材を受けたり、観光局からの依頼で日本のハラル・レストラン約70軒を調査したりと、目まぐるしい1年になりました

国によって、ハラルへの取り組み方は違う

音: マレーシアのハラル事情は、ほかの国と比べるといかがですか?

あるまさん: パサー(市場)に行ってノンハラル(ハラルでない。つまり豚肉を扱っている、ということ)の売り場を見ると、その国のハラルへの取り組み方が分かります。マレーシアのノンハラルへの分別の意識はとても高いですね。豚は隔離されて売られていますし、イスラム教徒が間違って買ったり、触ったりすることが無いように厳格に分けられています。ほかにも、グリコのお菓子「ポッキー」が、ポークを連想させるため「ロッキー」として売られているなど、豚への嫌悪感が強いようです。2009年に流行した豚インフルエンザの影響もあるかもしれません。これに対して、国民の約90%がイスラム教徒であるインドネシアの場合、豚に対する嫌悪感はマレーシアよりも低く、たとえば、市場では豚が隔離されることなく一緒に売られていたりします。インドネシアはそもそも豚が市場にほとんど無いので、注意する必要も無い。多民族のマレーシアは比較的容易に豚が手に入るので、気をつける必要がある、とも言えますね。

ハラルの共食の考え方。それは日本と同じで“和”を大切にする、ということ

日本初のハラールツアー同行時に関空で、マレーシアの観光客と記念撮影

音: これからの夢を教えてください。

あるまさん: 大学のころ、トルコ人の家に居候していて、生活のなかでハラルを体感しました、僕はハラルの“共食”の考え方が好きなんです。共に食べることをとても大切にする。トルコ人の家では、礼拝をする金曜日にはかならず10人以上の人が家に集い、みんなで食卓を囲みます。礼拝は、1人より大人数で一緒に行う方がよいとされています。価値観の共有化、つまりこれは日本語に訳すと“和”なんです。日本でも大切にされる和を、ムスリムの人は生活のなかで実践しています。その考え方に惹かれます。

また、イスラム諸国における日本食の認知度をあげて、「この料理の本場の味を食べてみたい!」というモチベーションで日本に遊びにきて欲しいです。和食の和をもじって、ハラルの和食は“ワラール”なんてどうでしょう。ワラールを食べに、日本に遊びに来てもらえるようになるのが僕の夢です。(了)

 

 

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