2011年の年末、六本木で開催された『ハラールと日本』のシンポジウム。そこで意見発表をされた「マレーシア・ハラル・コーポレーション」代表取締役のアクマルさんに、後日改めてお時間をいただき、ハラルという概念に対して、日本が成すべきことを伺いました。写真は、マレーシア・ハラル・コーポレーションの代表取締役のアクマルさん(左)と取締役のラジブさん(2012年1月24日)
「Made in Japan+ハラル。巨大なイスラム市場への参入が可能に」
音: なぜ今、日本はハラルを意識しなければいけないのですか?
アクマルさん: 日本の人口は、現在の1億2000万人から2050年には9500万人になると言われています。少子化が進み国内マーケットが先細りしていく日本は、国内需要だけでは景気回復はおろか現状維持さえも危ういと考えます。世界に通用する強力なブランドである“Made in Japan”にハラルの要素が加われば、17億人を占める巨大なイスラム市場へ参入することが可能になります。ハラルに対応することで、日本の産業・経済の発展が見込めるでしょう。
音: 日本は、イスラム世界の方から見ると遠い国なんですね。
アクマルさん: 世論調査をすると、マレーシアやインドネシアでは70%の国民が、日本が好きだと答えます。しかし日本へ旅行には行きたいけれど、ハラル環境がないから面倒として来日しない現状があるのです。もっと配慮があれば、マレーシア、インドネシア、中東などの裕福な観光客を呼び込むことができると思います。
「ハラルの和食処があれば、日本の文化を味わってもらえます」
音: 具体的にどのようなハラル環境を整えればいいのでしょう?
アクマルさん: ハラル環境とはイスラム教徒が食事のできる店があることや、お祈りをする場所が整っているかどうかです。日本は日本のやり方、ローカルハラルでいいと考えます。厳密にやろうとすると、レストランにアルコールもおけなくなりますから。
音: 日本にもアラブ系のレストランやマレーシア料理店にハラルレストランがありますよね?
アクマルさん: 食は文化だと思います。せっかく日本に来たのだから、日本の食文化を体験して欲しい。目にも美しい五味五色の日本料理や、おいしい焼肉、しゃぶしゃぶなどを味わってもらいたいと思います。また食は社交の場であるとも考えます。イスラム教の人イとイスラム教以外の人が一緒にテーブルを囲めるレストランが必用だと考えます。また、留学生の金銭的なことを考えると、ハラルメニューのあるファミリーレストランがあれば、最高です。
音: 日本で初めてハラル化した宮崎ハーブ国産牛を販売しているアクマルさん。このお肉は渋谷の焼肉店「牛門」にて、日本式の炭火焼肉として食べられるんですよね。この料理を提供しているのは、日本に旅行に来たイスラム教徒の方のためだったんですね!マレーシアにはハラルの和食店があるので、そこのシェフを講師として招いて、レシピや作り方を教えてもらうといいかもしれませんね。
「ディズニーランドにお祈りの場所があればムスリムの観光客は喜びます」
アクマルさん: 先ほどお祈りの場所と言いましたが、お祈りに必要なスペースは、人が座って地面に頭をつけられる広さですので、だいたい一人用で1×1メートルです。観光地に1ヶ所ずつあればいいと思います。また、雪を見に行きたいという人のためにスキー場や北海道、子供から大人に人気のあるディズニーランドにもあると喜ばれると思います。
音: ディズニーランド!なるほど。
アクマルさん: もう1点はビザです。外務省は、2010年7月から行ってきた1年間の施行期間の運用情況を踏まえ、2011年9月1日に「中国人個人観光ビザ」について、さらなる緩和を実施しました。マレーシアや他のイスラム諸国にも観光ビザの緩和を適用してもらえると、イスラムの富裕層を取り込めると考えます。
音: 日本でも、昔に比べるとハラルに対する意識が高くなってきていますか?
アクマルさん: 「味の素」が紆余曲折の末インドネシアで調味料の販売にこぎつけたこと、キューピーがハラル認証獲得に向けてマレーシアのマラッカに工場を設立したことなどから、ハラルに対する日本企業の意識が高まっていることは確かです。それは、先に私が述べたように、日本のマーケットの縮小を危惧した先に見えたものが、巨大なイスラム市場だということではないでしょうか。また、イスラム教徒の留学生のために東京大学、京都大学などは、学食にハラルのメニューを加えています。留学生にとっては、ありがたいことでしょう。私にはこのことから、つまり留学生の数からもイスラムマーケットの巨大性が見えるのです。
「ハラル・フォー・オール(すべての人にハラルを!)」
音: アクマルさんのスローガンは、「ハラル・フォー・オール」(すべての人にハラルを!)ですよね。
アクマルさん: ハラルであるということは、全イスラム教徒にとっての必須事項ですが、イスラム教徒だけのものではないと考えます。厳しい安全基準をクリアーした肉・料理という認識で、多くの人にハラルを楽しんでもらいたいと思います。また、最高品質の和牛を自国で食べたいと願っている海外のイスラム教徒の方々へ向けて、輸出も進めています。マレーシアからの国費留学生として来日してから早20年、私のルーツであるイスラムと、私を成長させてくれた日本の架け橋になるよう、今後一層まい進していく所存です。
音: アクマルさん、応援しています!
音の感想: このインタビューを行ったのは、2012年11月22日(火)、社団法人「日本マレーシア協会」主催の「ハラールと日本」を考えるシンポジウム後がきっかけでした。「ハラールと日本」のメイン講演は、拓殖大学のイスラーム研究所客員教授である武藤英臣さん。アクマルさんは意見発表をされました。武藤教授によると、ハラルとは、1.赤ちゃんの頃から、これはいい、これはダメと教わるルール。体で覚えるもの。2.ムスリムの人たちが、いちばん手近にできる信仰体現。3.ハラルであり、かつ、健康的、環境にいい、というダイエブの概念も必要。4.ハラルであるか、ないかは、イスラム教徒の人しか判断できない。とのこと。
また、アクマルさんからは、昨今、ハラル世界のリーダーシップを取ろうとしているのが、インドネシア、マレーシア、トルコの3か国。人口の97%をイスラム教徒が占めるインドネシアと国教としてイスラム教徒を掲げるマレーシアはハラル認証の信用度が高い、との情報がシェアされました。
武藤先生の「ハラルとは体で覚えたもの」という言葉。アクマルさんの「ハラルの街づくりをしたいなら、マレーシアに行ってみてください。そしたら分かります」と呼びかけていたこと。その言葉からも、日本人がハラルを体感する国としてマレーシアはふさわしいのでは、と感じています。
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