マレーシアは英語がかなり通じる国です。とくにクアラルンプール、ペナンなどの観光地では、タクシーのおじちゃんから露店のおばちゃんまで、結構ペラペラ。英語ができればコミュニケーションの心配はありません。……ですが。マレーシア語が話せたら、場が盛り上がるんです! とくに市場などの買い物のとき、値切りの交渉に使うと効果的。「えっ!マレーシア語が話せるの?」とお店の人が笑顔を見せたらこっちのもんで、「ちょっとね(ニコッ!)」と答えると、「オッケーラー♪それなら持っていき~」といった具合に、事がスムーズに運びます。というわけで、マレーシア滞在中、そして帰国してからも『指さし・マレーシア』編の利用頻度が高いわたし。今回は、この本の著者である戸加里(とがり)さんにインタビュー!マレーシアと関わることになったきっかけや現在の活動についてお聞きしました。(2012年3月9日)
初めての海外1人旅で、マレーシアに
音: 初めてマレーシアに行かれたのは?
戸加里さん: 大学2年のとき、初めての海外1人旅で。指さしの本にも書きましたが、当時のゼミの先生にマレーシアをすすめられたのがきっかけです。その頃はマレーシアのことは何も知らず、ちょうど同じ時期にクアラルンプールに出張するた先生と現地で会うことを約束して、いざ出発。20日間ぐらいかけて、コタバル、クアラルンプール、トレンガヌ、クアンタン、マラッカを周りました。
音: その旅が、20年に渡るマレーシアとの付き合いの始まりですね。
戸加里さん: その後、大学の留学プログラムで、2年間マラヤ大学に留学しました。日本に留学していた知り合いのマレーシア人が友達に頼んでくれたため、私は5寮をあてがわれて。普通、日本人は、言語センターに近い7寮にステイすることが多いんですけどね。マレーシア人とルームシェアをしていました。
音: 休日は何をしていましたか?
戸加里さん: パサマラム(夜市)に出かけたり、友人とショッピングセンターをぷらぷら。寮の食事は残念ながらおいしくなく、外でご飯を食べるのも楽しみでした。
細川さん(※指さし編集者): その頃、ハンドボールで活躍されていたと聞きましたよ。
戸加里さん: 活躍したというより、なりゆきです(笑)。中学校、高校とハンドボール部のキーパーをやっていて、そんな女性はマラヤ大学にいませんから、誘われたんです。在学中に、インドネシア大学、シンガポール大学、香港大学、マラヤ大学で、3年に1度開催している対抗戦がマレーシアで行われ、マラヤ大学の代表メンバーとして試合に出場。おまけに優勝までしたので、盛り上がりましたね。ただなぜか、今でも鮮明に覚えているのは、大会のオープニングセレモニーで、クアラルンプールの市長が歌を熱唱したこと。実に気持ちよさそうに、3曲も歌っていました。
音: 大学卒業後もマレーシアとの関係が続きますね。
戸加里さん: NHKに入社し、マレーシア語のラジオ番組を担当。この番組がきっかけでハニサさん(※私のインタビューにも登場。このページをスクロールダウンしてください)と知り合ったんですよ。
音: NHKをいったん退社され、マレーシアで3年半ほど勤務。その頃に『指さし会話帳・マレーシア』を製作されたんですよね。
戸加里さん: はい、マレーシアに住んでいたので、編集の細川さん(※本日のインタビューにも同行して下さっています)とはFAXと電話でのやり取り。部屋中にFAX用紙が散らばっていて、その時期に泊まりたいと言ってくれた友人には「今はムリ!」と断ったほどで(笑)。
音: この本、マレーシアのことを知れば知るほど、よく作られた本だなぁ~と感動します。マレー語だけでなく、中国語やタミール語も紹介されていますしね。
マレーシアのリアルな姿をできるだけ伝えたかった
戸加里さん: できるだけマレーシアのリアルな姿を伝えたいと考えました。悩んだのは英語です。マレーシアは、日常会話に英語が出てくる国なので、入れようかどうしようかと。ただ、全部を記載するのは無理なのでやめました。
音: 絵もリアルに描かれてますよね。たとえばこのマレーシア人の部屋にある青いゴムぞうり!たしかにみんな履いてますよね!
戸加里さん: 絵は、イラストレーターのおおのさんに細かくお願いをしました。でも実は、彼女もマレーシア好きなんです。
音:ええっ!!!
戸加里さん: 大好きなマレーシアとあって、かなり気合を入れて描き込んでくれたんですよ。
音: だからこんなにも読んでいてあったかくなるんですね。さて現在は、どのような活動をされていますか?
戸加里さん: マレーシア語の通訳や、大学の非常勤でマレーシア語を教えています。また、大学に在籍し、クランタン州(マレーシア半島の北東部の地域)を中心に演じられてきたワヤンクリ(影絵)の研究もしています。昨年11月、山形の国際映画祭で、マレーシア人監督が製作した「影のない世界」が上映されました。これは、ワヤンクリをテーマにした映画で、マレーシアの伝統芸能、それにまつわる人々の想いなど、いろんな意味が込められています。この上映会のために影絵師を招き、実際の影絵芝居の公演もやったんですよ。現在、クランタン州で影絵師として活動しているのは10数人ほど。なかにはクアラルンプールに住んでいる影絵師もいますが、ほとんどがクランタンにいて、1年半ほど研究のためにクランタンに住んだこともあります。
音: 影絵というと、インドネシアのイメージが強いのですが、マレーシアにもあるんですね。戸加里さんが惹かれるのはなぜ?
戸加里さん: ひと言では言えません。ワヤンクリは、クアラルンプールや他の地域での上映は可能なのですが、いちばん盛んであるクランタン州での上映は91年より基本的に許可が下りなくなっています。よかったら映画を見て下さい。今のところ予定はないですが、もしかしたらポレポレ中野あたりで、上映されるかもしれません。
音: 最後に、戸加里さんにとってのマレーシアの魅力とは? 20年もの長い間、マレーシアに注目されているのはなぜでしょう?
戸加里さん: なんとなく、です(笑)。理由は分かりませんが、縁があるのだと思います。食べものがおいしいからかな。まだまだ私の知らない魅力がある国です。
音の感想: インタビュー内にも記載しましたが、指さし会話帳のイラストを担当しているおおのさん、マレーシア好きなんだそうです。そして、指さし会話帳の編集を担当している細川さん(※今回、インタビューにも参加して下さいました)も、これまた大のマレーシア好きで、仕事でストレスが溜まったとき、“ホッと息がつける場所”として、マレーシアに頻繁に訪れた時代もあったそうです。戸加里さん、おおのさん、細川さん。この3人のマレーシアスペシャリストが制作した『指さし会話帳マレーシア』は、言語の紹介だけでなく、文化やそれぞれの実体験、マレーシアへの想いがたっぷり詰まった本になっています。そして、私の手元にあるこの1冊。私が何度も読み返し、書き込みや下線が加わって、私個人の想いと体験が積み重ねられている。本ってやっぱり、いいもんですね。
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