マレーシアの食卓
自然の恵みに満ちた国、マレーシア
マレーシアで市場(パサー)に行くと、豊かで多様な食材の数々に毎度驚かされます。肉、魚、野菜、果物、干物、スパイス。加工した調味料、スナック、菓子類。見渡すかぎり並ぶ食材は、その場で解体している肉、もぎたての完熟果物、今朝水揚げされた魚など、あれもこれも新鮮なものがずらり。これがマレーシア人にとっては日常の光景というのだから、うらやましい限りです。
Malaysia DATA
首都 クアラルンプール
面積 約33万㎢(日本は約38万㎢)
人口 約3170万人(2016年統計)
主な民族 マレー系、中国系、インド系
国語 マレーシア語(英語も通じる)
食卓の主役は米
豊富な食材のなかで、マレーシア人にとって一番大事なのは、米です。マレー半島の北部やボルネオ島では稲作が盛んにおこなわれ、自国産のインディカ米をよく食べます。たとえば、ココナッツミルクでご飯を炊いた「ナシレマ」は、マレーシア人がこよなく愛するソウルフード。米が必須の「ナシゴレン」「チキンライス」「カレー」も人気のごはん。「クイテオ」「ビーフン」は米から作られた麺。マレーシア人が“ごはん”と聞いてまず思い浮かべるのは、私たち日本人と同じ、米です。
多民族がおりなすバラエティに富んだ食文化
マレーシアの最大の特徴、それは多民族の国ということです。マレー系、中国系、インド系のおもに3つの民族が暮らしていて、それぞれに食文化が違います。もっと細かくみると、中国系のなかでも、広東出身や客家出身などで大事にしている食事が異なります。
また、日本でも北海道と沖縄の食文化が違うように、タイに近いマレー半島北部、シンガポールやインドネシアに近い南部、海を隔てて広がるボルネオ島などでは、人気料理や人々の嗜好が異なります。複数の民族がともに暮らす社会だからこそ、地域性も大事にし、均一化されない多様な食文化をそのままよしとする。それがマレーシア料理をおいしく、そして興味深いものにしています。
唐辛子とカレー
とはいっても。民族間において食文化の共通点がまったくないのかといえば、そうではありません。マレーシア人が好む味は、この2つが挙げられると思います。
ひとつは、辛味。マレーシア料理は唐辛子をつかったものがひじょうに多いです。国民食といえる「ナシレマ」には、唐辛子で作るサンバルソースが必須ですし、惣菜の定番である野菜炒めもピリ辛味。豚肉の漢方スープ「バクテー」には、唐辛子入りの醤油がつけダレとしてついてきますし、「チキンライス」にも唐辛子タレはなくてはならないもの。思うに、平均気温30度の常夏の国では、食欲を刺激するために辛味はマスト。気候に即した味つけは、私のような旅人にとってもたいへん美味に感じられるのです。
もうひとつは、カレーです。マレーシア人はみんなカレーが大好き。365日カレーを食べている、といったら驚くかもしれませんが、たとえば「カレー粉でマリネした鶏唐揚げ」や「カレー風味のスナック」なども含めると、それぐらい簡単にいくと思います。また、インド系民族の作る本場のカレーがそこら中で安く食べられるので、舌も肥えています。朝カレー、毎日カレー、深夜カレー。マレーシア人にとって、カレーは日常食です。
食感と香り
そうそう!忘れてならないマレーシア料理の味のポイントがあとふたつあります。それは、食感と香り。
口のなかで様々な食感が弾けるのをおいしいと感じ、とくにカリカリ感を重視します。たとえば、イカンビリス(煮干し)を高温の油でカリッと揚げて、ごはんや麺に合わせたり。ピーナッツのカリカリ感もごはんのおいしさを引きたてます。
香りは、パンダンリーフ。ゆでたての枝豆のようなほくほくとした香りのパンダンリーフは、アジア料理全般につかわれる香りづけのハーブですが、マレーシア人のパンダン好きは筋金入り。お菓子にはエキスをしぼって加え、ごはんを炊くときにも投入。ドーナッツを揚げる際は、その揚げ油に加えたり、砂糖を煮詰めるときは一緒に煮るなど、ここにも?!と驚くぐらいどんどん加えます。ちなみに食べる用ではありませんが、車の芳香剤としてもパンダンの香りは人気です。
ドリンク事情
さて、飲料についてもマレーシアならではの特徴があります。国民の半数以上がお酒を飲まないイスラム教徒のため、屋台やレストランで提供しているアルコールの種類は比較的少なめ。定番のお酒はビールで、シンガポールのビール「タイガー」が1番人気。2番人気はデンマークの「カールスバーグ」。これらはマレーシアに生産工場があります。
また、アルコールが少なめの影響なのか、ソフトドリンクは種類豊富。その場で搾ってくれる「果物ジュース(1番人気はスイカジュース)」、エネルギー補給の健康飲料「100プラス」、そして甘い紅茶「テタレ」。塩分も補給できる「梅ジュース」、解熱効果のある漢方ドリンク「ローハンコー(羅漢果)」など、暑い国ならではの飲料も手軽に楽しめます。
食の交差点、マレーシア
マレーシア料理とは、気候、風土、宗教観の影響を受けて形づくられ、移民が祖国の味を忘れまいと伝統を重んじて守り抜き、それらが発展しながら、複合的にまじりあったものです。マレーシア料理とは、人々が歩んできた歴史を反映するものであり、豊かな自然のもとで暮らすマレーシア人のアイデンティティそのものだ、と私は思います。
マレーシア料理 5つのキーワード
Keyword1 屋台で家族団らん
マレーシア人は家族で屋台に行きます。それも毎日。つまり屋台のテーブルがダイニングであり、家族団らんの場所なのです。また、朝から同僚と屋台ミーティングをしたり、カップルが屋台でデートというのも、ごく当たり前のハナシ。それぐらい屋台は、マレーシア人の日常の生活に無くてはならないものです。
Keyword 2 カレー天国、マレーシア
マレーシアのカレーは、乾燥系のスパイスを多種使い、メインの具は肉や魚介類。いちばんポピュラーなカレーは「チキンカレー」で、ココナッツミルクを使ったまろやかな味です。また「カレーラクサ(カレースープ麺)」「カレーパフ(カレー味のスナック)「アヤムゴレン(カレー味の鶏唐揚げ)など、じつに多種多様なカレー(&風味の料理)と出会えます。
Keyword 3 圧倒的なバラエティの多さ
多民族国家マレーシアは、民族ごとに食事の嗜好や伝統食が異なり、まるで複数の国の料理がひとつの国に集結したかのようなバラエティに富んだ食があります。また、宗教ごとに食のルールがあり、たとえばイスラム教徒は豚を食べませんし、ヒンズー教徒は牛を食べません。とはいっても、お互いの食文化を行き来することは多く、とくにチキンライスは民族を超えて人気の料理、カレー屋台は民族を超えて人気の店です。
Keyword 4 食感と香り
マレーシア料理は、スパイスや調味料をたっぷり使い、辛(唐辛子)・甘(砂糖)・酸(酢ではなく果物由来)など、複数の味がからみあった深い味です。それに加えて、マレーシア人が「おいしさに必須」と考えているのが、食感と香り。彼らはおいしい料理を表現するときに「あの料理はクランチーだ」や「アロマがいいね」と語ります。
Keyword 5 買い物は市場で
肉コーナーでは、鶏や羊がその場で解体されていて、果物コーナーには、マンゴー、ランブータン、ドリアンなどの南国フルーツが山積み。港町の市場には、水揚げされたばかりの魚介類が並んでいます。市場は食材の宝庫。ちなみに、会計は重さを測ってもらってグラム数での支払い。少量買いたいとき、大きさを選びたい時にとても便利です。