ジャーナル

ロイさんとチャーさんが教えてくれたこと

八丁堀にあるマレーシア料理店「マレーカンポン」の店長ロイさんが、地震のときの様子を教えてくれました。

3月11日午後2時46分、あるテレビ局の取材を受けていたとき、揺れは襲ってきた。焼酎の瓶が4本、棚の上から転がり落ちたが、幸いに割れず。地震発生のため取材は中止。テレビ局のクルーは、そのまま東京の街に取材に駆け出していった。その後、ロイさんは2時間かけて歩いて帰宅。地震発生から1週間、ディナーの予約はほとんどキャンセル。それでも、お客さんが来るかもしれない、といつもどおりに店を開け続けた。現在は、アジア食材の仕入れはふだんどおりだが、鶏肉や野菜などの食材の価格が値上がりしている、とのこと。

でも、いい話しもありました。

4月3日(日)放送の日テレ「世界まる見えDX」番組内で、マレーシアのおやつロティカヤが紹介されること。また、自家製サンバルブラチャンの店頭販売まで、もうすぐ、とのこと。イポー名物カレーパンとジャランアローの手羽先のメニュー開発をすすめている、とのこと。

そして、いただいたニョニャラクサのおいしかったこと!

ココナツミルクに干しエビからとった出汁、身もたっぷり。カレー風味はほんのり漂っているぐらいで、とても上品。じんわりと口のなかに広がる辛味、とろっとしたスープに絡む麺、どれもがすべて絶妙なハーモニーになっていました。

おいしい料理を食べて、いつもみたいにロイさんやチャーさんと話をしていたら、わたしはいつもみたいに、昔みたいに、笑っていました。

じつは、この日の私は元気がありませんでした。

ニュースで流れる、身を呈して他人の命を救った人のいくつもの悲しいエピソードが、わたしをむなしく、無気力にさせていました。こんないい人たちが、なんで亡くなってしまったんだろう。一生懸命に生きていても、一生懸命に生きていなくても、いい人でも、いい人でなくても、巨大な自然の力では、みんなあっけないくらい平等の命。
それが、むなしくて、悲しくて。

せいいっぱい努力して、3月11日以前と同じように行動して、目に映っている景色は前と変わらないはずなのに、なにかが違う。ぼんやりしている。笑っているのに、心の底から笑えていない。いつもの半分しか笑っていないような気がする。いや、もしかしたら、昔から、そうだったのかもしれない。地震なんて関係なく、もっと昔から、わたしは半分しか笑っていなかったのかもしれない。テレビのなかの芸能人も、友人も、家族も、みんな笑っているように見せながら、心のなかで泣いていたのかもしれない。

そんな思いが心のなかで広がっていけばいくほど、世のすべてのことが虚像に感じられて。それがむなしくて、そして怖かった。

でも、ロイさんとチャーさんに会ったら、分かったんです。

いつものように、マレーシアの話題で盛り上がり、「マクドナルドのチリソースがどれぐらい必要か」という話をして笑ったら、分かったんです。

笑顔が半分だろうが、心の底から笑えないだろうが、昔からそうだろうが、なかろうが、だから何なのだ?そんなことを考えて悩むことに何の意味がある?

いや、ない。

もし答えが分かっても、そのことで誰かひとりでも笑顔にできる?

答えはノー。

だったら、止めよう。考えるのは終わり!止ーめた!

店から出るとき、チャーさんが「音さ~ん、気を付けてね~!」と笑顔で手を振ってくれた。チャーさんの満面の笑みにつられて、わたしも笑った。地震で大変かもしれない、と店に顔を出したのに、逆にわたしのほうが励まされてしまった。

笑いながら、扉を閉めたら、今度は涙が出てきた。
泣きながら笑いました。

今のわたしにいちばん似合っているのは、この泣き笑いだな~、と思いながら、涙が止まりませんでした。(音)

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