Report 麗しのマレーシア刺繍 クバヤ講座のレポート
2012.12.12
イエンさん。彼女のお母さんはクバヤ職人としてマレーシア政府から認められたリム・スウィーキムさん。※イエンさんのインタビュー記事もあります日本で初めて、マレーシアの伝統工芸であるクバヤ刺繍を学べる講座が、東急セミナーBEの二子玉川校で行なわれています。
先生は、ニョニャ・クバヤのテーラー、コイ・ブン・イエン(漢字では郭文燕)さん。マレーシアのペナン出身でプラナカン。プラナカンとは、15世紀ごろより中国からマレー半島に渡ってきた中国人たちの子孫のこと。彼らはやがて地元のマレー人などと所帯を持ち、その子供たちは衣装や食べ物などにおいて独自の文化を持つようになります。彼らのことを総称してプラナカンと呼ぶのですが、そのうち女性のことを“ニョニャ”(奥さまという敬称だそう)と言い、ニョニャたちの正装をニョニャ・クバヤ(クバヤとは、ブラウスととスカートの組み合わせのスタイルのこと)といい、マレーシアの伝統工芸なのです。
ニョニャ・クバヤの特徴は、自然をモチーフにしたカラフルな刺繍。ミシンを意のままに動かして縫ったもので、細やかなデザインになると、1枚を仕上げるのに200~300時間もかかります。職人として一人前になるには4~5年。職人の数が少なく、後継者不足の声も聞かれるクバヤの刺繍は、本国マレーシアでも学ぶ機会がほとんどないのです。そんなクバヤの刺繍が日本で習えるなんて!あんなに難しい刺繍をどのように習うの?本当にできるの?という疑問を解決すべく、教室を見学してきました。
ミシンを自由自在に使って、カーブやジャンプを縫う
クバヤの刺繍はミシンを使う。専用のミシンの必要は無く、家庭用の普通のミシンでOK。カーブなどの曲線を縫うため、抑え金を外した状態で使う10月より開催しているクバヤ教室。伺ったのは4回目のレッスン。まだ4回目のレッスンにも関わらず、生徒さんのミシン使いが上手なこと!「15分やったら休憩して下さいね~。窓の外の緑を見てリラックス、リラックス」とイエン先生から声がかかります。今日は難易度の高い“サークルホール”という刺繍に挑戦しているので、休憩しつつ、集中して練習します。サークルホールとは、■まずミシンで小さな輪を縫います。■次に、その輪をまたぐようにジグザグに細かく縫い、輪を補強。■そして輪の真ん中をハサミでプチッと穴を開けます。■次に穴が開いた箇所の縁にそって、針を細かくジグザグで動かし、穴の枠を補強。これでサークルホールの完成。
木製のリングに布をはさみ、手でリングを動かしながら刺繍をする。慣れないうちは、コットンよりも、オーガンジーなどの薄い布のほうがやり易いそうキムファッション(イエンさんの実家のお店)製作のテキストに添って、ひとつずつ刺繍のモチーフを練習していく
手芸用のハサミで輪の中央に小さく穴(ホール)をあけているところ。思いっきりよく、でも慎重に布を切るジグザグに細かく布を動かすのがとても難しい。イエン先生が横でサポートしながら学ぶ
クバヤ刺繍はアート。縫う人の感性を大切にする
自分で刺繍をやってみると、この刺繍がどれだけ素晴らしい技で、どれだけ膨大な時間をかけたものかが分かる。値段は10万円以上だけど納得!生徒さんは「難しいわ~」と口々に嘆いていましたが、私から見れば驚異のうまさ!よく見れば、糸の配列がそろっていない部分もあるけど、パッと見ただけでは分からないですし、とっても素敵!クバヤ刺繍って、意外にできるもんなんですね~。
印象的だったのは、このイエン先生の言葉。
「It’s like art! クバヤ刺繍はアート。あなたの感性で仕上げて欲しい」。
そして生徒のKさんも「クバヤ刺繍は、細かい作業だけどあまり堅苦しくないんです。こうしなきゃダメというルールがあまり無い気がする」と。この言葉で、ハッと気づいたんです。南国のマレーシアで育まれたクバヤ刺繍。その生き生きとした自然のモチーフには、南国で生きる人々の大らかでのびやかない思いが込められているだなぁ、って。商業化の道を歩まず、大量生産されることなく、ひとつひとつ手作りで受け継がれてきたクバヤ刺繍。多少下手でも、心をこめて縫ったクバヤ刺繍が美しく輝くのは、そこにちゃんと先人たちの心が宿っているから。クバヤを縫っていたニョニャたちの心がそこにあるのです。
故郷マレーシアの文化や、世界を駆けまわるお母さんついて語るイエンさん。イエンさんの話しを聞いて、生徒さんみな笑ったり、感心したりイエン先生(右から2番目)と生徒さん。イエン先生のニョニャ・クバヤを羽織って、はいチーズ!
最後に、3人の生徒さんの感想を紹介します。
「ミシンでよく裁縫をしていたのですが、いつものミシンの使い方と違うので、初めは体が慣れなくて。針のスピードも自分の好きな速度があってゆるめられないんです。今回、やっと慣れてきたところで、うまくできると達成感がありますね」(50代 Oさん)
「目と指先と神経の衰えを感じますね…(笑)。すごく神経を使うので、頭の体操にもよさそうです。あまり細かいことは気にせずに楽しんでます」(60代 Nさん)
「洋裁は苦手意識でミシンもほとんど使ったことがありませんでした。でもマレーシアが大好きで、マレーシアというキーワードがあるなら挑戦してみよう、と。やってみたらおもしろくて、自分でミシンを買いたいぐらい。デザインに自分の味を出せるのがいいですね」(20代 Kさん)
教室は、イエン先生を中心にみんながつながっていて、まるでマレーシアにいるみたいな、あったかな空気が流れていました。クバヤ刺繍を通して体験するマレーシアという国。イエンさんのような職人さんは、あれこれ言葉で説明しなくても、自分の技を見せればぜんぶ通じるからうらやましい!
クバヤ刺繍を通して、マレーシアとつながる。イエンさんのクバヤ技術を間近で見れば、外国とか、言語とか、そういう壁をあっという間に超えて、マレーシアが目の前に現れる。このエキサイティングな体験をぜひ多くの人に味わって欲しいです。(音)
【情報】月に2回、水曜日の15:30~17:30にて開催中。見学無料(30分以内)、トライアル受講2900円(教材費別途)、途中からのレッスン参加(日割り計算)も可能です。詳細の情報はこちらまで。東急セミナーBE 二子玉川校「ミシンで作る 麗しのマレーシア伝統刺繍 クバヤ」
https://www.tokyu-be.jp/seminar/2012100005MU06001.html
☆参考文献 『マレー半島 美しきプラナカンの世界』(産業編集センター)
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