Interview 日本ハラール協会 川畑あるまさん
2013.4.3
川畑あるまさん。手前に並んでいるのはハラル認証をもつ和のお菓子、手にもっているのはJAKIMの資料とすし金(ポークフリー)のメニュー川畑あるまさんは、NPO法人「日本ハラール協会」の研究員。マレーシア、インドネシア、台湾などのアジアを中心にしたハラル事情を調査。日本の食品がイスラム圏に進出するためのサポートや、イスラム教徒の方が日本に観光に来たときの受け入れ支援に力を注いでいます。
実はあるまさんが“ハラル”という世界に初めて触れたのは、大学1年、マレーシアを旅したとき。バスツアーに参加し、ほかの参加者とは違う料理を提供されたり、ひとりぽつんとバスのなかに取り残された。そのとき日本では感じたことのない未知なる世界への好奇心がかきたてられたのだそう。
それから6年が経ち、イスラム世界との縁が深まるなかで、あるまさんには1つの夢が生まれました。今のあるまさんがハラルという概念を通して広めたい夢。それは、イスラム教徒の方だけでなく、私たち日本人にとっても大事で、あったかくて、なくてはならないものでした。
マレーシア好きでコタバルからパハンまで6年間で15回もマレーシアに行ったという川畑さん。好きなマレーシア料理は、マラッカのチェンドル、ロティチャナイタロル、テタレ。
マレーシア旅行で、ハラルという世界があることを知りました
音:今の活動のきっかけになったのは、マレーシア旅行での体験だそうですね。
あるまさん:大学1年のとき、マレー半島を旅行しました。ローカルのバスツアーに参加したときのこと。ほかの参加者がバスを降りていくので、観光地に着いたんだな、と僕もついていくと、「君は降りなくていい」と言われて。バスにぽつんと取り残されたんです。その場所はモスクで、みなさんは礼拝のためにバスを降りたんですね。また、僕だけ別のレストランに案内されることもありました。その頃はイスラム教徒についての知識は何もありませんでしたから、みんなどこに行ってるんだろう、と知りたくてたまらなかった。その体験が忘れられず、大学2年のとき、AISECのインターシップに参加。ジョホールバルに2ヶ月滞在し、世界のいろんな国の学生と活動をともにしました。それからマレーシアにハマり、今では仕事も入れると15回はマレーシアを訪れています。
マレーシアのハラール認証機関JAKIMにて撮影台湾の回教寺院にて
大学でアライグマの研究。ハラルに惹かれるのはこの経験があるから
音:ハラルを研究しよう、と思ったのはなぜですか?
あるまさん:僕がハラルという概念に惹かれるのは、トサツの考え方です。“命あるものを殺す罪”を神に転嫁できるでしょう。神が罪を引き取ってくれる、と言ってもいいのかな。僕は大学で理系の生物学を専攻していて、研究のために毎日アライグマを解剖していたんです。動物を殺す罪をその人がじぶんで背負ってしまうのは辛すぎます。僕もアライグマの命に向き合っているときは、とても苦しかった。もしアライグマの研究をしていなかったら、今の自分の活動はないと思います。
音:それからハラルの研究に?
あるまさん:京都の大学院に進み、ハラルの食品研究を修士論文のテーマに選びました。その研究のために「日本ハラール協会」を訪れたのが2010年。それから研究員としての活動をスタートし、2012年は、テレビ番組で取材を受けたり、観光局からの依頼で日本のハラル・レストラン約70軒を調査したりと、目まぐるしくて、ミラクルのような1年になりました。
国によって、ハラルへの取り組み方は違います
日本初のハラールツアー同行時に関空で、マレーシアの観光客と記念撮影音:マレーシアのハラル事情は、ほかの国と比べるといかがですか?
あるまさん:パサー(市場)に行ってノンハラル(ハラルでない。つまり豚肉を扱っている、ということ)の売り場を見ると、その国のハラルへの取り組み方が分かります。マレーシアのノンハラルへの分別の意識はとても高いですね。豚は隔離されて売られていますし、イスラム教徒が間違って買ったり、触ったりすることが無いように厳格に分けられています。ほかにも、グリコのお菓子「ポッキー」が、ポークを連想させるため「ロッキー」として売られているなど、豚への嫌悪感が強いようですね。2009年に流行した豚インフルエンザの影響もあるかもしれません。これに対して、国民の約90%がイスラム教徒であるインドネシアの場合、豚に対する嫌悪感はマレーシアよりも低く、たとえば、市場では豚が隔離されることなく一緒に売られていたりします。インドネシアはそもそも豚が市場にほとんど無いので、注意する必要も無い。多民族のマレーシアは比較的容易に豚が手に入るので、気をつける必要がある、とも言えますね。
ハラルの共食の考え方。それは日本と同じで“和”を大切にする、ということ
音:あるまさんの活動のエネルギー源。そしてこれからの夢を教えてください。
あるまさん:大学の頃、トルコ人の家に居候していて、生活のなかでハラルを体感しました、僕はハラルの“共食”の考え方が好きなんです。共に食べることをとても大切にする。トルコ人の家では、礼拝をする金曜日にはかならず10人以上の人が家に集い、みんなで食卓を囲むんです。礼拝も1人より大人数で一緒に行う方がよいとされています。価値観の共有化、つまりこれは日本語に訳すと“和”なんです。日本でも大切にされる和を、ムスリムの人は生活のなかで実践しています。イスラム諸国における日本食の認知度をあげて、「この料理の本場の味を食べてみたい!」というモチベーションで日本に遊びにきて欲しいな~。和食の和をもじって、ハラルの和食は“ワラール”なんてどうでしょう。ワラールを食べに、日本に遊びに来てもらえるようになるのが僕の夢です。
音の感想:あるイベントで「音さん、Webサイト見てます!」と話しかけられたのが半年ほど前。それがきっかけでFacebookでお友達になり、あるまさんのマレーシアやインドネシアでの活動日記を楽しく拝見しています。そんなある日、あるまさんがこんな言葉をつぶやいていて感銘をうけました。「ハラールはルールだけでなく、ともに食べるということが大切。それは和を重んじる、というのと一緒で、和食にも通じる。ハラルの和食は、ワラールって名乗ってもいいのでは?」。なるほど、そのとおりかも!それはマレーシアごはんの会と通じるもので、ぜひインタビューに出ていただきたい、とお願いをしました。マレーシアが大好きなあるまさん。ワラール、ぜひ実現させたいですね!